国営諫早湾干拓事業の潮受け堤防で仕切られた堤防内の調整池(左)と諫早湾。中央は排水門=2月15日、長崎県諫早市

 国営諫早湾干拓事業(長崎県)の開門の可否が争われた訴訟の判決で長崎地裁は17日、干拓農地への被害を重視し、開門を認めなかった。漁業者側の後ろ盾だった「開門命令」確定判決はいっそう形骸化し、国が控訴見送りの奇策で、逆に「開門禁止」を確定させるのではないかとの疑念も広がる。 

 今回の「開門禁止」は、織り込み済みだった面もある。地裁の裁判長は15年の仮処分決定で、開門差し止めを命じた裁判官。「同じ主張、同じ証拠、同じ裁判長。何も変わらないのだから結論も同じだ」。3月の和解協議打ち切り後に漁業者側弁護団が予言した通り、判決文は15年決定の「丸写し」だった。

▽共倒れ

 諫早訴訟は地裁、高裁、最高裁まで計7件が乱立し、収拾が付かなくなっている。打開に動いたのが長崎地裁だった。各訴訟を代表する形で漁業者側、営農者側、国の3者による和解協議の場を設定。開門しない代わりに、国が有明海再生に責任を持って取り組むことでの合意を目指した。

 しかし、丸1年を費やした和解協議は溝を埋めるどころか、不信を増幅させる結果に終わった。100億円の漁業振興基金案と引き換えに開門断念を迫るような交渉に、漁業者側は強く反発。営農者側も「開門を含めた議論」は一顧だにせず、席を蹴った。「営農者が乗れないのなら、決裂は仕方ない」。農林水産省幹部の冷淡な口ぶりに、開門を望まない国の本音がにじんだ。

 これまで一枚岩で開門を訴えてきた福岡、佐賀、熊本の漁業団体のうち、福岡、熊本は基金案に賛成に回り、しこりを残した。「基金も開門も共倒れだ」。判決で最悪の事態が現実となり、ある漁連幹部はうなった。

▽禁じ手

 東京・霞が関の農水省。山本有二農相は記者団に「予想はしていたが、詳細に判決を分析して対応したい」とし、問題解決に向けては「誠心誠意の努力を積み重ねていくだけだ」と述べるにとどめた。ただ実際は、確定判決から6年余りが過ぎても開門は果たされない。

 漁業者側弁護団が危ぶむのは、禁じ手とも言える国側の「上訴権の放棄」だ。差し止め判決がこのまま確定した場合、営農者側弁護団は「開門命令の執行力は失われる」と主張。長崎地裁も和解勧告の中で、その可能性を示唆している。敗訴した側の農水省幹部は控訴について「農水だけで勝手に答えられない。適切に対応する。それ以上でもそれ以下でもない」と言葉を濁した。

【識者談話】環境裁判の限界

 佐賀大経済学部・畑山敏夫教授(政治学)の話 環境問題を巡る裁判の限界を感じるような判決だ。判決は、開門調査で海の汚染原因を究明する可能性よりも、営農者側が受ける可能性のある被害を防ぐという具体的な利益を優先した。海を元に戻すという広い視点に立っていない。だが問題の根本は、裁判所任せで後手の対応を続ける国の不作為にある。国には営農者と漁業者の双方が納得できるよう間に立って協議の場を主導し、解決する責任がある。

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