46歳で亡くなった作家の中上健次(なかがみけんじ)は、全集の電子版が配信されており、今なおクリエーターに影響を与え続けている。今年が没後25年で、きょうは彼の命日だ◆「彼は、また働く。土がめくれる(略)腕の力を入れた分だけ、スコップは土をすくいあげる。なにもかも正直だった」。戦後生まれで初の芥川賞を受けた小説『岬』の一節である。熊野の生地を「路地」と呼び、そこに溶け合って肉体労働に汗する男が主人公。複雑な出自の男の血の叫びを映した世界は、作家本人と重なる◆まだ若い頃、出版社に原稿を持ち込んではボツになる仲間に、唐津出身の作家北方謙三さんがいた。以前、取材した時、北方さんは「俺の方が文章はうまいが、中上のような書かずにはいられない文学的な核がなかった」と言っていた。彼に強烈な嫉妬を覚えたという◆中上は作家になる前、東京・新宿のジャズ喫茶に入り浸った。そこで出会い、兄のように慕った一力干城(いちりきたてき)さんも唐津出身。故郷に帰った一力さんはライブハウス「リキハウス」を開くが、1990年に他界。その3カ月後、中上は唐津で偲(しの)んだ◆西唐津の店にはその時に綴(つづ)った中上の詩が飾ってあり、今でも東京などから若い中上ファンが訪れる。魂の底から噴き出すような肉声が聴こえる気がするのだろう。今もその存在感は圧倒的である。(章)

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