膨大な数の患者がいるのに日本ではなかなか病気として扱われない慢性便秘。しかし、高齢社会の到来で加齢による便秘も加わり、ますます増えるばかり。こうした事態に対処するため、一般の医療機関でも慢性便秘症をきちんと治療できるよう初の診療ガイドライン作成が進みつつある。【共同】

 ガイドライン作成メンバーでもある横浜市立大の中島淳教授(肝胆膵(かんたんすい)消化器病教室)は「便秘は、日本では人知れず悩んでいる人が多く、医療の前面に出てこない。便秘のことを全く教えない日本独特の医学教育の問題でもある。ただ、最近の便秘治療は進展しつつある。効果が高い新しい処方薬の登場や漢方薬のメリットを生かした治療が注目されている」と話す。

 便秘は、若いうちは圧倒的に女性の病気で、大腸の運動を抑制する女性ホルモンの影響という。65歳以上になると急増し、男女差がなくなる。

 「いったん慢性便秘になると完全に治癒することはないので、うまく付き合うことが重要。日本では市販の便秘薬を買いあさり、自己流の治療をする不運な患者が多い」

 慢性便秘の人は生存率も低下するという。排便時の力みなどが脳卒中や心臓疾患などに関連してくるようだ。さらに腹部膨満感や腹部不快感などにより、身体的、精神的に生活の質(QOL)が非常に落ちている。

 「日本の医師は、便秘で困った患者が来ると排便回数ばかり聞く。便秘の大多数を占める排便困難の人が『毎日出ている』と答えると、『では心配いらない』で終わり」

 排便困難の人は、分割排便や残便感の訴えが強いが、そのつらさが医師に伝わっていない。便秘だが1日4~5回排便している人は珍しくなく、多くの患者が不適切な治療を受けているという。

 「便秘治療のゴールは便形状の正常化。適度な軟らかさを持ったバナナのような便で完全排便を目指す。完全排便で快便感が取り戻せる」

 これまで治療には、酸化マグネシウムや刺激性下剤などが使われてきたが、この3月、新薬の「リナクロチド」(成分名)が出た。腸から水分を分泌させる作用があり、治験では服薬1週間で便形が正常化したという。

 一方、漢方薬による治療が再認識されている。

 「便秘には『大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)』など6種類が使われる。緩やかに排便を促す大黄の含量により強い作用から弱い作用までそろっている。作用がゆっくりで副作用もなく、安心感があって、通常の便秘薬で対応不可能な腹痛や腹部膨満感などの便秘の周辺症状に対応できる」

 作用は分子レベルで解明も進んでいるという。

 「例えば、大黄甘草湯は便秘治療薬の代表で効果が高く、『麻子仁丸(ましにんがん)』は高齢者にも安全。非常に満足度が高い」

 慢性便秘症診療ガイドラインは日本大腸肛門病学会を中心に夏の完成に向けて作業が進行中。ガイドラインにより、非専門医でも的確な診療が可能になるという。

 中島教授は「便秘の診察は患者が何に困っているのかを理解する必要ある。知識を持った上で対応することが大事。漢方薬は、かかりつけ医に出してもらうのが一番よいかも」と話している。

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