快進撃を続ける将棋の藤井聡太四段が「憧れの存在」として名を挙げる谷川浩司九段は、その終盤の手際から「光速の寄せ」などと呼ばれる◆名人に長く在位し、永世名人の資格も持つが、厳しい勝負の世界をどう生きてきたかをうかがわせる言葉がある。「負けましたとはっきり言える人は強くなる。これをいいかげんにしている人は上には行けない」。たとえ、プライドをへし折られようとも、その現実に向き合わなければ成長はないというわけだ◆先日、気になる“敗北”があった。将棋ではなく、地震予知の分野である。これまで40年にわたって「予知できる」としてきた巨大地震について、国の検討委員会が「科学的な確立した手法はない」として、根本から見直す方針転換を決めた。いわば、白旗を揚げた格好である◆これまでは、巨大地震の前に生じるひずみ「プレスリップ」の動きを察知できれば、予知は可能だと考えられてきた。その前提に立って、さまざまな防災対策や法制度も組み立てられてきた経緯がある◆ここまで研究が進んだからこそ、予知の難しさが分かったのかもしれないが、人命がかかっている以上、いつまでも希望的観測にしがみついてはいられない。「今の科学では地震は予知できない」-。その現実をはっきり受け入れる。そこから新たな一歩が始まる。(史)

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