天皇陛下の生前退位をめぐって、陛下自身がお気持ちを表明された。「これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないか」と、今後、ご高齢のために十分に役割を果たせなくなっていく懸念を述べられた。

 直接は生前退位という言葉は使われなかったものの、「象徴としての地位と活動は一体不離」という信条とともに、皇太子へ譲位したいというご意向は、多くの国民に伝わっただろう。

 共同通信の世論調査でも「生前退位をできるようにした方がよい」という意見が85%を占めている。天皇の公務が「多いと思う」に至っては9割近くに上り、国民の多くが生前退位を支持している。

 生前退位には、皇室典範の改定などが必要になる。陛下のメッセージを受けて、安倍晋三首相は「ご心労に思いを致し、どのようなことができるのか、しっかり考えたい」と述べ、検討に入る考えを示した。

 生前退位に向けて、大きな流れがつくられつつある。

 国民の多くが陛下のお気持ちを尊重したいと考えている背景には、象徴天皇としての在り方を示してこられた、これまでの陛下の歩みが大きい。阪神大震災や東日本大震災、熊本地震の被災者らのもとに駆けつけて慰め、励まされる姿を、多くの国民が見つめてきた。

 そして、「慰霊の旅」として硫黄島、長崎、広島、沖縄、サイパン、パラオ、フィリピンと各地で祈りをささげてこられた。そのお姿に、私たち国民の多くは不戦の誓いを新たにしてきた。

 現在の皇室が、国民から大きな支持を受けているのは、ひとえに陛下がつくられてきた象徴としての天皇像が、ひとつの理想として受け入れられてきたからだ。

 今回、生前退位という道を示された背景には、私たちの社会が超高齢社会を迎えたことと深くかかわっている。将来的に健康を損なえば「社会が停滞し、国民の暮らしにも様々な影響が及ぶ」と指摘されており、役割を全うしようとする責任感から、次世代への引き継ぎまでお考えになったのが分かる。確かに「終身制」という現行制度の在り方は、あまりにも大きなご負担に違いない。

 ただ、生前退位の導入に当たっては、慎重でもあるべきだ。

 天皇は象徴と位置づけてもなお、国民にとっては依然として大きな権威であり続けている。生前退位が可能になれば、その権威を狙って、政治利用される危険が高まりはしないか。恣意(しい)的に退位させるなどのケースも考えられる。生前退位を恒久的な制度とするのか、それとも今回限りか。譲位されれば、皇位継承順位が1位となる秋篠宮さまをどう位置づけるか、など論点は多い。

 陛下のご発言を受けて、議論は生前退位に集中するだろうが、皇室の在り方をめぐって議論すべきテーマは少なくない。悠仁さまのご誕生で議論が遠のいたが、継承についても考えておくべきだ。

 これまでに陛下が示されてきた象徴天皇の在り方を引き継ぎ、将来にわたって天皇制が存続するためには、女性天皇や女性宮家の是非なども含めた幅広い議論を進めていかねばならない。(古賀史生)

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