「孫が『後を継ぎたい』と言ってくれるように魅力的な仕事をしたい」と語る前田勇人さん・清美さん夫妻=唐津市梨川内

「楽しくてやりがいのある農業」を目指している中島辰義さん・美千子さん夫妻=神埼市千代田町

 先進的な農業に取り組む個人・団体を表彰する「佐賀農業賞」。本年度は、先進的農業経営者の部で最優秀賞となった前田勇人さん(56)清美さん(54)夫妻をはじめ、良質な農畜産物の生産や地域農業の振興に努めている18の個人・団体に賞が贈られた。先進的農業経営者、組織・集団、若い農業経営者の各部門ごとに3回に分け、最優秀賞と特別賞の受賞者の取り組みを紹介する。

■最優秀・農林水産大臣賞 前田勇人さん、清美さん(肥育農家、唐津市)

 長男夫婦、次男、従業員1人と力を合わせ、唐津市で和牛約750頭を肥育している前田勇人さん・清美さん夫妻。20年前の就農時は20頭程度だったが、卓越した技術で1頭1頭の価値を高め、その稼ぎを投資する堅実経営で規模を拡大してきた。

 勇人さんは肥育農家の次男。兄が家業を継ぎ、高校卒業後は地元の工場で働いていたが、同じく肥育農家に生まれた清美さんとの結婚を機に就農への思いが日増しに強くなった。実家で父と兄に技術を学び、前田家を継ぐ形で独立した。

 仕事の根底には、低価格で仕入れた子牛を大きく育てることに苦心した就農当初の知恵と工夫がある。

 稲わらを多く食べさせて胃袋を強く大きくする初期段階の「腹づくり」に始まり、病気やストレスなど異変がないかチェックする見回りも。発育履歴の管理を徹底しており、大規模になっても変わらぬ愛情を注ぐ。

 「牛飼いほどよか仕事はなか」。勇人さんは父が常日頃こう口にしていたのを思い出す。ぜいたくは慎んで牛に投資し、牛舎建築も自ら手掛けるなど懸命に働く後ろ姿を追いかけてきた。

 子牛の価格高騰やグローバル化の荒波で和牛生産はかつてない厳しい時代を迎えている。経営体質強化のため今年1月に法人化し、経営移譲の準備や規模拡大も見据えた従業員の福利厚生充実にも乗り出した。

 「孫の誰かが『後を継ぎたい』と言ってくれるように魅力的な仕事をしないと」。家族を思う笑顔に、産地を次世代につなぐ覚悟もにじむ。

■優秀・佐賀新聞社賞 中島辰義さん、美千子さん(イチゴ栽培、神埼市)

 誕生日が8月13日で一緒という中島辰義さん(60)美千子さん(62)夫妻。二人三脚で県産イチゴの主力品種「さがほのか」(27アール)や米麦、大豆の生産に取り組んでいる。施設イチゴは畝を崩さない不耕起栽培で肥料を少なくし、光合成を促進させる炭酸ガスを活用。地区トップクラスの生産量を誇っている。

 辰義さんは22歳で就農したが、当時の経験は苦いものだった。育った実が奇形ばかりで2カ月間、収穫できなかった年も。「競争だから、周りに技術を教えてくれる人はいなかった」

 こうした思いから、20~30代の若手生産者12人に呼び掛けて8年前に「一・五会」を発足し、定期的に会合を開いている。土作りや水の量、ハチを放つタイミングなど、栽培には天候に左右されるデリケートな部分が多く、通信簿を作成するなどしてメンバー同士でノウハウを共有。こうした工夫が実を結び、2年目には神埼地区平均を5500円上回る坪単価を達成した。

 妻の美千子さんは人繰りを担当する。土入れや定植など人出がいる時期は経験のある地域の女性に呼び掛け、手伝いに来てもらう。女性部の交流会も開催し、ゆとりのある環境作りに一役買っている。

 初期投資が高額で、重労働が敬遠されがちな施設イチゴだが、昨年は神埼地区全体にまたがるグループも発足した。ほどよい緊張感で競い、助け合う農業を実践しながら「楽しくてやりがいのある農業」を提案している。

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