72回目の「終戦の日」が巡ってきた。太平洋戦争では軍人軍属と一般人、合わせて310万人の貴い命が失われた。私たちが享受してきた平和は、その犠牲と、焦土の上に成り立っている。

 まもなく、あるNPO法人が、その活動に幕を下ろそうとしている。戦没者の遺骨捜しや遺品の返還に取り組んできた塩川正隆さん=三養基郡みやき町=が理事長を務める「戦没者追悼と平和の会(旧・戦没者を慰霊し平和を守る会)」である。

 「二度と戦争を繰り返させない」という思いを込めて、沖縄やフィリピンで遺骨を集め、追悼してきた。旧日本兵の埋葬記録を米側から手に入れ、遺品を遺族の元へ届けるなど地道な活動を続けてきた。遺族にとってどれほど慰めとなっただろう。あの戦争を風化させないという点でも、非常に意義深い。

 いまだ収容されていない遺骨は、113万柱もあるという。そこに、私たちが忘れてはならない現実が残されている。

 今年は、被爆国・日本にとって、その姿勢が国際社会から問われ続けた。国連で「核兵器禁止条約」が採択され、核廃絶に向けて国際社会が大きな一歩を刻んだが、当の日本は背を向け続けたからだ。

 「あなたはどこの国の総理ですか」-。長崎市で被爆者団体が安倍晋三首相に向けた言葉には、激しい怒りが込められていた。

 核兵器を違法と断じる国際条約が世界122カ国の圧倒的賛同を得たにもかかわらず、そこに日本の姿がない。「ヒバクシャの受け入れがたい苦しみと危害」「核兵器廃絶という目標達成に向けたヒバクシャの努力」と盛り込まれただけに、政府の態度を許せないのは当然だろう。長崎市の田上富久市長も、この条約を「ヒロシマ・ナガサキ条約」と呼びたいとして「条約の交渉会議にさえ参加しない姿勢を被爆地は到底理解できない」と批判した。

 一方で、日本を巡る安全保障環境は厳しさを増している。核兵器や弾道ミサイル開発に突き進む北朝鮮の脅威が増しているだけに、「核の傘」を手放すわけにはいかないという主張も根強い。

 だが、局面は変わりつつある。北朝鮮の脅威は今や、東アジアだけの問題ではなくなった。北朝鮮が弾道ミサイルの飛距離を伸ばせば伸ばすほど、危機は世界へと拡大している。それだけに、国際社会が足並みをそろえ、断固とした姿勢を示す意義はあるはずだ。

 ぜひとも日本政府には、核廃絶の流れを加速させる役割を担ってもらいたいが、逆行しかねない、気になる動きがある。

 日本国内で、敵基地攻撃能力の保有論が公然と語られ始めた点だ。小野寺五典防衛相はこれまで「ミサイルを発射する前に、止めるのが一番確実だ」と先制攻撃を主張してきた。大気圏外に出たミサイルを着弾する直前に打ち落とすのが技術的に難しいとしても、これは日本が堅持してきた「専守防衛」を踏み外すのではないか。

 安倍首相がリードしてきた憲法改正論議も、9条改正を軸に議論が本格化しつつある。平和国家としての役割を果たしつつ、いかに安全保障体制を築いていくか。その覚悟と対応力が試されている。(古賀史生)

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