首脳同士の個人的な信頼関係だけで物事は動かないことが明らかになりつつあるのではないか。

 安倍晋三首相とプーチン・ロシア大統領は、ウラジオストクでの会談で、北方領土での日ロ共同経済活動について、海産物の養殖や観光ツアー開発など5項目の早期実現を図る方針で合意した。

 安倍首相は会談後の共同記者発表で、平和条約締結への意欲を改めて示したが、活動実現の前提となる双方の法的立場を害さない「特別な制度」創設交渉のめどは立たなかった。ロシアは北方四島への実効支配も強めており、北方領土問題の進展につながる見通しは依然、つかなかった。

 また、核・ミサイル開発を推し進める北朝鮮に対する制裁を巡っても、プーチン氏は、対話を重視する姿勢を示して平行線に終わった。

 安倍首相は北方領土交渉など解決が難しい問題には首脳同士の信頼が必要だとして、プーチン氏と19回も会談を重ねてきた。しかし、目に見えた成果は表れていない。過去の経緯よりも首脳同士の信頼関係を過度に重視する交渉の在り方の検証も必要ではないか。

 首脳会談では共同経済活動に関し、10月初めをめどに2度目の調査団を北方四島に派遣することも申し合わせ、両国の関係省庁局長級で構成する作業部会を設置し、協議を加速させることも確認した。

 合意した事業は海産物の養殖の他、「温室野菜栽培」「島の特性に応じた観光ツアーの開発」「風力発電の導入」「ごみ減らし対策」の四つ。両首脳は、事業に従事する日本人が北方四島をスムーズに訪れるための法的枠組みに関する検討作業を加速させる方針でも一致したという。

 昨年12月に山口県長門市で行われた首脳会談で協議開始に合意してから進展を見せている印象だが、実態はそうではない。経済活動の実現に不可欠な双方の法的立場を害さない「特別な制度」創設交渉は、両国が領有権を主張しているため、いっこうに本格化していないからだ。

 菅義偉官房長官は8日の記者会見で、「特別な制度」について「活動はわが国の法的立場を害さないことが大前提だ。(5事業を)詳細に検討する中で法的枠組みの議論をしていく」と述べた。

 しかし、ロシア科学アカデミー極東研究所のワレリー・キスタノフ日本研究センター所長は、共同通信のインタビューで、「ロシアは、共同経済活動はロシア主権下で行うとの立場。『日本の主権もロシアの主権も害さない』というのは、満足できない」と述べ、合意は極めて困難との見通しを示している。

 キスタノフ氏は「プロジェクトに応じ、何らかの柔軟な決定をすることは可能なはずだ」として、個別事業ごとに交渉を進める日本政府の方針に理解も示したが、この方式では全事業が動きだすまでにかなりの時間がかかることになる。

 対北朝鮮制裁を巡ってもプーチン氏は、圧力・制裁強化を求める安倍首相に対して「軍事圧力は何も生み出さない」との立場を崩さない。

 個人的な信頼関係をてこに、自分たちの主張を言い分が異なる相手に受け入れさせるという手法に限界があることは明らかだ。交渉の在り方を拙速に変えるのは良くないが、不断の見直しは必要だろう。(共同通信・柿崎明二)

このエントリーをはてなブックマークに追加