厳しい表情で山本農相(右)と会談する佐賀県の山口祥義知事=東京・霞が関の農林水産省

笑顔で山本農相と会談する長崎県の中村法道知事(左)=東京・霞が関の農林水産省

 控訴するのか、しないのか-。諫早湾干拓事業を巡る開門差し止め判決への対応で、霞が関と地元の佐賀、長崎が揺れている。農林水産省と法務省は二つの選択肢についてそれぞれ影響をシミュレーションしているが、必ずしも意見は一致していない。控訴断念を選んだ場合、「どちらの立場にも立てない」としてきた国にとっては大きな政策転換を意味する。

 「控訴しない理由をどう説明するのか、非常に難しい」。農水省の職員は胸の内を明かす。2010年12月、当時の民主党政権は開門を命じた福岡高裁の判決を上告せずに確定させた。その後、自民党はこの政治判断を批判し、農水省幹部らも「長崎県との信頼関係を失い、現在の混迷を招いた」と振り返る。

 諫早湾干拓の事業官庁で内心は「開門したくない」との思いを抱える農水省だが、この苦い経験が控訴断念の判断を慎重にさせる。加えて、開門に反対する営農者側が参加する訴訟がなくなることで、開門派と国を含めた3者がそろう和解協議の実現を、国自らが閉ざすことにもなる。「開門派の反発は相当だろう。納得させるだけの説明責任が求められる」

 一方、ある法務省幹部は「控訴せず」を強く主張する。開門しない国の方針を明確にした上で、別の訴訟で何らかの和解協議を設定することも視野に入れる。

 あくまで法律論で「控訴せず」を主張する法務省と、現場を抱え、慎重な政策判断を強いられる農水省。「最後は両案を提示して上の判断を仰ぐことになるかもしれない」と語る。

 鍵を握るのが、開門を命じた福岡高裁の確定判決を受け、漁業者らに制裁金などの強制執行をしないよう国が求めた請求異議訴訟だ。新たに生じた「困難な事情」によって義務を履行できない場合、強制執行を不当として止めることができる。開門派弁護団は、国が開門差し止め判決を確定させることで、「困難な事情」を強固にする狙いではないかと警戒する。

 一方、控訴せずに開門差し止め判決を確定させた場合、仮に請求異議訴訟で国が負けると、相反する義務の板挟みも確定し、制裁金を支払い続けなければならなくなる可能性が高い。農水省の職員は「控訴する権利の放棄はこの先いつでもできる。タイミングの問題も検討課題だ」と漏らす。

 控訴期限は5月1日。日ごろは地域振興や観光で連携する佐賀、長崎両県知事が同日に、控訴に関して正反対の要請を農相に行う異例の事態をどう受け止めるのか。国の姿勢が問われている。(取材班)

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