最近「ジビエ」という言葉をよく耳にする。カモやウサギ、シカ、イノシシなど狩猟でとった野生鳥獣の食肉を意味するフランス語である。欧州貴族の伝統料理として発展し、フランスでは最高級食材だ◆日本でも注目されているが、新しい食文化でもない。縄文遺跡からは獣肉の骨が多く出る。殺生を禁じる仏教の影響で、肉食禁止令がたびたび出されたが、庶民はひそかに食べており、明治以後は牛肉食が流行となる◆そのジビエの利用を広めようと、政府が旗を振り始めた。先日、首相官邸で民間有識者らを交えた関係省庁連絡会議の初会合も開かれた。狩猟や捕獲で野生鳥獣による農作物被害を減らし、中山間地域の所得アップにつなげる試みである。被害額は全国で年200億円にも上るから頭が痛いことだ◆ところが捕獲されたシカの食肉利用は約1割で、残りは捨てられている。特にやっかいなイノシシは一晩で作物を食い荒らすと農家も対策に困っており、佐賀県内の自治体では電気柵に頼るだけでなく、捕獲し肉を利用する動きが活発になっている◆江戸後期の風俗書『江戸繁昌記』によれば、「ももんじ屋」といわれた獣肉店ではカワウソやクマ、オオカミまで扱っていて、人々の食欲に驚く。野趣あふれる肉がごちそうとなり、山間部のご苦労が減るなら言うことはない。(章)

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