日本学生対校選手権の男子100㍍決勝で日本新記録となる9秒98をマークした桐生祥秀選手=9日、福井県営陸上競技場

 幾度も味わってきた失意を乗り越え、日本人初の9秒台突入を果たした。陸上男子の桐生祥秀選手(21)が9日に福井県営陸上競技場で行われた日本学生対校選手権の100メートル決勝で9秒98をマーク。ライバルの台頭が著しい中、4年余りの奮闘を実らせ「一番は記録にも記憶にも残る。一番に俺が出したいと(思っていた)」と胸を張った。

 速報タイムは9秒99。19年前に伊東浩司氏が10秒00で走った時も速報は9秒99だった。会場中が固唾(かたず)をのんで見守る中、確定タイムが9秒98と表示されると、歓喜に思わず跳び上がった。

 10秒01の好タイムで脚光を浴びたのは2013年4月。17歳で「人生が変わった」。走るたびに注目され、10秒の壁に挑み続けた。京都・洛南高で指導した柴田博之監督は「きついだろうな、と。桐生が期待を背負ってきた時間は(ほかの選手の)比じゃない」と元教え子を思いやる。

 兄を追って中学で陸上部に入った元サッカー少年には非凡な才能があった。故障に見舞われながらも3年時に自己記録を10秒87まで伸ばした。高校では体力強化で重さ3キロのゴム製のボールを真上に10メートルも投げ上げ、周囲を驚かせたことも。抜群の身体能力を磨いて第一人者となった。

 だが、この1年余りで9秒台に迫る選手が続出。屈辱にまみれる経験もした。昨年のリオデジャネイロ五輪は日本勢でただ一人予選落ち。パワー不足を痛感し、東洋大の土江寛裕コーチを通じてアテネ五輪男子ハンマー投げ金メダリストの室伏広治氏に「大嫌いだった」(桐生)という筋力強化の指導を願い出た。

 昨秋から週に1度、経験のなかったチューブを使ったトレーニングなどを1対1で学び、土江コーチも「軸がぶれなくなった」と話す。トップスピードの向上に手応えをつかみ、今季は安定して10秒0台で走っていた。

 だが、再び試練が訪れる。日本選手権でピークを合わせられず4位に終わり、個人種目での世界選手権代表入りを逃した。直後は目標を見失い、約1週間は走る気も起きなかった。気持ちを奮い立たせて大舞台に臨み、400メートルリレーでは銅メダルに輝いたが、100メートルは奮闘するライバルたちを客席で観戦。「応援はしているけど、心のどこかで悔しいという思いがあった」と語った。

 重圧や屈辱にくじけず「日本初」の称号は譲らなかった。ついに念願を果たし「うれしいけど、9秒台をコンスタントに出したい気持ちの方が今は大きい」。堂々と、次の目標を言葉にした。【共同】

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