暫定開業を5年後に控えた九州新幹線長崎ルートへのフリーゲージトレイン(軌間可変電車、FGT)導入計画が開発トラブルにより宙に浮いている。善後策に対する佐賀県と長崎県、JR九州の意見はすれ違う。国土交通省内では「解決の糸口が見えない」との声も聞こえるなか、キーマンは他でもない佐賀県との見方を示す関係者は少なくない。

 7月の与党検討委員会で、JR九州の青柳俊彦社長は「FGTは導入困難」と明言した。JR九州は、FGT開発主体の鉄道・運輸機構から試験車両の設計、製作や走行試験を受託し、開発の実務を担ってきた。自らが開発した商品を、別人格のように営業主体として拒否するが、その判断の経緯に関する説明が尽くされたとは言い難い。一般的な新幹線に比べ、車両コストが年間50億円増えると指摘するが、2008年と12年の着工認可や昨年の6者合意でJR九州はFGT導入に合意しており、過去の判断と違う主張をするに至った理由や50億円の積算根拠、いくらコストを落とせば許容できるのかなど説明責任がある。

 長崎県の中村法道知事は与党検討委で、これまで封印してきた全線フル規格化を初めて要望した。本格開業がさらに遅れると沿線のまちづくりに影響すると訴えた。しかし、フル規格は一朝一夕には実現できない。長崎ルートのほかに北海道新幹線と北陸新幹線が建設中で、財源はJRが利益から国に支払う貸付料を2060年度まで先食いしている。財源確保の困難さに加え、ルート選びや環境アセスなど気の遠くなる年月を要する。「待てない」という長崎県の思いに応えられるのか。

 佐賀県の山口祥義知事は、与党検討委でフル規格について「議論できる環境にない」と述べた。負担額が県の年間土木費の2倍近い800億円に膨らむことを考えれば、国体関連の公共投資を控える中、当然の見解といえる。一方、関西直通による人の流れを実現できるならば「FGTにこだわらない」と発言した。関西直通が前提でフル規格がだめなら、在来線の幅を広げる「ミニ新幹線方式」の検討を容認したとも受け取れる。ミニ新幹線はフル規格の10分の1から20分の1程度の事業費に抑えられるとされるが、それでも佐賀県には相当の負担が発生する。

 そうした判断の前に詰めるべきことが残っている。国はFGT開発に関し、取り組んできた車軸の摩耗対策は「相当程度の効果がある」とし、「もう一息」と手応えを強調する。石井啓一国交相も開発を継続する考えを示し、新年度予算の概算要求でも開発費を盛り込む公算が大きい。佐賀県は、国が「年単位」としている対策が具体的に何年かかるのか、詳細な説明を求めていくべきだ。

 長崎県やJR九州、国が注視しているのは佐賀県の意思だ。どんな整備方式にせよ、佐賀県が負担するだけの価値があると判断すれば、話は一気に進む。「約束が違う」とFGTにこだわれば、開発を待つ選択肢も消えてはいない。佐賀県が示す意思に「議論が収斂(しゅうれん)されるかもしれない」と国交省のある職員は語る。現状、佐賀県は与党や国から提案を受ける立場だが、情報収集や水面下での交渉を通し、県民の利益にかなう次の一手を準備してほしい。(栗林賢)

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