「贔屓(ひいき)は持たぬほうがいい、と言われる。特定の選手なり力士なりに熱を入れると、心がのどかではなくなる」―。そう自らを戒めるようになれば相当なファンだと、芥川賞作家の古井由吉さん。40年ほど前の随筆『哀しくグロテスク』に書いている◆秋場所が始まったが、相撲ファンは物足りない心境だろう。せっかく4横綱時代がやってきたというのに、3横綱が初日から休場とは。“豪華番付”はめったに見られないからこそ、値打ちがあるということか。過去を振り返っても、いずれも長くは続いていない◆平成に入って4横綱がそろったのは2度あるが、それぞれ千代の富士、3代目若乃花の引退で5場所続いただけ。4横綱時代の到来は、世代交代の兆しでもある。白鵬と鶴竜は32歳、稀勢の里は31歳と、いずれも30代。ただひとり横綱の看板を背負う日馬富士に至っては最高齢の33歳と、いずれも引き際がちらつく◆今場所は優勝候補の最有力と目された大関高安と、曲芸のような取り口で人気の宇良までけがで休場に。気を取り直して次の注目株を探すのが、今場所の楽しみ方というわけか◆もっとも古井さんは「贔屓の力士が引退して、やれやれと息をついたかと思うと、もう別の新進の力士の勝ち負けに、心を痛めはじめている」と、こりないファンにあきれはてていたが…。(史)

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