植松 三十里  ・作

 wataboku・画

 菅谷 有槻子 ・題字

「私もそう思う。それに西洋の大砲は、大型だけに遠くまで飛ぶ。こちらの弾が届かぬところから、異国船にボンベン弾を撃ち込まれたら、まるで反撃ができぬ」

 直正は総毛立った。ましてボンベン弾が命中したら、台場は木っ端微塵だ。茂義は、なおも言葉に力を込めた。

「銃も違う。火縄は使わず、火打ち石のような仕掛けで、確実に火がつくらしい」

 火縄銃は縄の先に火がついている状態で、火薬を操作するために、常に危険が伴うが、火打式の銃は火薬を収めてから、火花が散るだけなので、誤着火の危険が格段に減るという。

 直正は西洋の砲術が、自分が考えていたよりも、はるかに進んでいると思い知った。そして長崎に、そんな研究をしている町人がいることを、頼もしく感じた。

「ならば平山醇左衛門、ぜひとも西洋砲術を身につけてきて欲しい。免許皆伝を取って、わが家中でも広めてくれ」

 たちどころに醇左衛門が笑顔に変わり、畳にへばりつくように平伏した。

「誠に、ありがたきお言葉」

 直正は茂義に顔を向けた。

「大事な役目であるし、いっそ家中から遣わす形にするか」

 普通、武術修行は個人の裁量に任されているが、藩で費用を負担すべきだと思った。だが茂義は首を横に振った。

「せっかくだが、それには及ばぬ。西洋の文物を嫌う向きもあるゆえ」

 それは、かつて島津斉彬にも警告されたことだった。斉彬は蘭癖と呼ばれ、そのために今も藩主の座につくことができない。

 直正は納得してうなずいた。

「わかった。ならば任そう」

 茂義は満足そうに言う。

「ともあれ、まずは下調べから始めるが、もし西洋砲術が価値のあるものであったら、わが武雄の家中で広めたい」

 いきなり本家で採用するとなると、抵抗を呼びかねない。しかし武雄の鍋島家だけなら、茂義ひとりの判断で進められる。小さい組織の方が何かと動きやすく、直正は茂義の深慮に感じ入った。

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