会見で控訴しない方針を示す国を強く批判する馬奈木昭雄弁護団長(左)とノリ漁業者の川崎賢朗さん=佐賀県庁

 「有明海を見捨てた」「何を守りたいのか」。諫早湾干拓事業を巡って開門差し止めを命じた一審長崎地裁判決受け入れを決めた国に対し、開門を求めてきた漁業者と弁護団は怒りの声を上げた。開門しない考えを鮮明にした国。突然の方針転換に不信感を一層募らせた。

 「全てうそとごまかしによるフェイク(偽)で成り立っている」。開門派の馬奈木昭雄弁護団長は佐賀県庁で記者会見を開いて山本有二農相の談話を批判した。控訴しない理由に示した最高裁の統一的判断の困難さは弁護団が当初から指摘し、提案した開門によらない基金は和解協議で既に破綻している。「国は身勝手で独善的だ。あらゆる汚い手を使って漁業者を屈服させようとしている」

 山本農相は今回の判決前に「急転直下もある」と述べ、長崎地裁も和解勧告の中で「本件で差し止め判決が言い渡され、これが確定すれば」と言及、開門派には開門させないための“布石”に映った。判決を確定させない予防線として新たに当事者として参加する対抗策を取った馬奈木団長は「泥沼の道をあえて選んだ国を控訴審に引っ張り出す」と力を込めた。

 開門派弁護団と24日に山本農相と面会して厳しい漁場環境を訴えた漁業者の大鋸武浩さん(47)=藤津郡太良町=は、その翌日の望まぬ決断に対し、「あの場は要望を聞く大臣のパフォーマンスにすぎなかったのか」と非難した。「農水省は『和解が一番いい』と言っていたのに、結局は口先だけ」と憤った。

 開門を命じた福岡高裁確定判決から6年余り。法廷闘争が続いて有明海再生の兆しは見えない中、漁業不振は深刻さを増す。高級二枚貝のタイラギは5季続けて休漁し、太良町の漁業平方宣清さん(64)は「漁業の衰退がひどく、このままでは消えてしまう」と窮状を訴えた。開門する姿勢を一切示さなかった国に対し、「一体何を守りたいのか」と疑念を向けた。

 弁護団の会見に同席した佐賀市川副町のノリ漁業者川崎賢朗さん(56)は「開門を含めての和解の機会を否定した国は有明海を見捨てたのと同じ」と悔しさをにじませ、「開門なくして有明海の再生はなく、これからも戦っていく」と強調した。

■長崎県、営農者ら歓迎

  国営諫早湾干拓事業の潮受け堤防排水門の開門差し止めを認めた長崎地裁判決に対し、国が控訴しないことを表明した25日、開門に反対する営農者や長崎県の中村法道知事らは国の判断を歓迎し、和解での解決に期待を寄せた。

 「地域の考えに沿った判断だ」。県庁で取材に応じた中村知事は、国が開門しない方針にかじを切った点を評価。「大変ありがたい」と安堵の表情を見せた。開門派が「独立当事者参加」の申し立てをしていることについては「今後も推移を見極めたい」と述べた。

 会見した開門反対派の山下俊夫弁護団長は感慨深げ。「確定判決と国の方針を180度転換させる歴史的快挙」と強調。干拓農地で営農するマツオファーム(島原市)の松尾公春社長も「当然」と受け止めつつ、「まだ開門問題はつきまとうのでは」と不安ものぞかせた。

 2010年の開門判決は当時、民主党政権の菅直人首相が上告せず確定させた。それを批判した自民党政権が、今回は控訴しない判断。同様の振る舞いに映るが、諫早市選出の八江利春県議はこう打ち消す。「菅さんは勢いで勝手にやった。今回は開門しない流れの司法判断など経過をちゃんと踏まえている。あの時とは違うよ」【長崎新聞提供】

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