国営諫早湾干拓事業(長崎県)の開門調査問題が、ヤマ場を迎えている。国が開門に代わる漁業環境の改善策として示した「有明海振興基金」案は、漁業者側が強く反発している。

 先日の内閣改造で新たに農相に就任した山本有二氏は、基金案について「農業経営の発展に向けた基金、これについては関心を寄せてもらっている」とした上で「国会が始まる前に、現地を訪れてみたい」と直接漁業者や営農者から話を聞く考えを示し、26日を軸に調整している。

 2012年末に第2次安倍内閣が発足して以来、農相は林芳正氏を皮切りに西川公也氏、ふたたび林氏、森山裕氏、そして今回就任した山本氏と、くるくると代替わりしてきた。3年半で延べ5人とは、農政にどれだけ重きを置いているのか、疑わしくもなる。

 農相が代わるたび、就任会見で事態打開への意欲が示され、現地での聞き取りがあり、そしていつまでも足踏みが続く。国民の圧倒的な支持を背景に強いリーダーシップを発揮している安倍政権だが、この問題となると、まったく意欲が感じられないのは、なぜだろうか。

 政治が解決しようとしないだけに、司法が和解協議を促したことそのものは、大きな意義があったと評価したい。国と開門派、開門反対派の関係者が同じテーブルについて、有明海再生を含めた解決策を率直に話し合えるのならば、非常に好ましい。

 だが、裁判所が示した和解案には疑問が残る。「開門を前提としない」と、結論ありきだったからだ。この方針に沿って国が出してきた基金案にしても、これまでに取り組んできた有明海再生事業と、いったい何が違うのだろうか。

 ギロチンで堤防を閉め切ってから19年以上が過ぎた。この間、開門調査を除く、あらゆる手だてを使って有明海再生を試みてきたのではなかったか。

 基金の額をめぐって「数十億円」「40億円では少ない」などと伝わるが、どれだけの額を積むかの問題ではないだろう。漁業者が求めているのは、将来にわたって漁業を続けられる「宝の海」を取り戻せるかどうかのはずだ。

 これまでに国は4県や各漁協から基金案に対する考えを聞き取ったが、賛同したのは長崎県だけだという。その長崎県にしても「開門しない」という前提に賛同したにすぎないのではないか。

 すでに福岡高裁では開門調査を命じる判決も確定している。なぜ、開門して閉め切り堤防を築く前の状態に戻してみる、という極めてシンプルな解決策だけが除外されてしまったのか、理解に苦しむ。

 干拓地の営農に影響が出ないように対策工事を施した上で、5年間にわたって開門してみる。その結果をみれば、閉め切り堤防が有明海にどのような影響を及ぼしてきたかがはっきりするはずだ。

 基金案をめぐっては9月6日に、国が聞き取り調査の結果を長崎地裁に報告することになっている。現在の基金案が手詰まりなのは明らかであり、これまでの「開門しない前提」を覆さなければ事態は前に進まない。未来に宝の海を引き継ぐため、山本新農相は開門をためらうべきではない。(古賀史生)

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