自らの研究業績をまとめた「佐賀農漁業の近現代史」を刊行した佐賀大学の小林恒夫名誉教授

 佐賀大学農学部の小林恒夫名誉教授(農業経済学)が、自らの研究業績をまとめた「佐賀農漁業の近現代史」を刊行した。農業では佐賀平野と東松浦半島(上場台地)、漁業では有明海と玄界灘を比較し、生産や経営形態に独自の考察を加えて佐賀県の農漁業の“底力”を描き出している。

 本ではコメ反収(10アール当たり収量)日本一を成し遂げた戦前の「佐賀段階」と、1960年代後半の「新佐賀段階」の成立過程を詳述。減反政策への対応や集落営農の成立、激動する農政への適応ぶりなどもまとめている。

 佐賀平野と東松浦半島の比較論では、1990年代の10アール当たり農業粗生産額に着目。平たん地農業が停滞したのに対し、中山間地の多い半島地域は畜産や施設園芸への転換でかえって生産額が伸び続けたことを強調している。一方、1戸当たりの農業専従者数でみると、佐賀平野が0・9人とワンマン経営に近い形態なのに対し、上場地区は1・4人と家族協業が主体で、1人当たりの所得で大きな格差がある点を課題に挙げている。

 漁業分野では、80年代前半までノリと貝類の生産量が半々で推移し、その後、ノリ養殖に偏重して「ノリモノカルチャー」が形成された点を指摘。玄界灘地域の漁業生産額が83年をピークに激減し、1経営体当たりでみると、90年代に900万円前後で肩を並べていたのが、2000年代に入って有明地区が1千万円超、玄海地区がその半分程度と差が広がり、「日本漁業が抱える課題の縮図」としている。

 このほか、ここ30年で唐津市浜玉、七山両地区の花き園芸が急速に成長したことに着目。ともに露地ミカン栽培が盛んだった地域で、70年代の価格暴落による危機感を背景に転作した農家の事例などを紹介し、生産条件が不利な中山間地における農業経営の可能性も示している。

 小林名誉教授は今年3月に定年退官。現在は同大学農学部附属アグリ創生教育研究センター唐津キャンパスで非常勤講師を務めながら研究を続けており、「農業を取り巻く環境は年々厳しさを増しているが、歴史の中に佐賀農業の底力を見いだせるはず。後に『新・新佐賀段階』といわれるような飛躍のヒントになれば」と話す。

 「佐賀農漁業の近現代史」(農林統計出版)はB5判220ページで、2500円(税別)。

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