「燃えたよ…まっ白に燃えつきた。まっ白な灰に」。ボクシング漫画『あしたのジョー』(原作・梶原一騎)のラストで、主人公がポツリとつぶやく。リング上のジョーは眠っているのか、死んでいるのか、身じろぎもしない◆時代は学園闘争のさなか、バリケードの中では連載誌「少年マガジン」が愛読されていた。作家の沢木耕太郎さんは、若者たちの熱狂を「せめてジョーひとりくらいは“まっ白に燃えつきる”幸せを味わわせてあげたかったから」と解説した。その心理の奥底には、自分たちには灰になるほどの充足感は味わえないだろうという前提がある◆こちらは、文字通り完全燃焼の結末を迎える。20年前に米欧が協力して打ち上げた土星探査衛星「カッシーニ」である。地球からはひとつに見える土星の輪が、実は七つのリングでできていること。その衛星エンケラドスには間欠泉があり、生命をはぐくむ環境があること…◆数々の発見を14億キロのかなたから届けてきた。土星の輪を何度もくぐった長い旅も終わる。カッシーニはきょう、土星の大気圏に自ら突入する最後のプロジェクト「グランド・フィナーレ」に臨む◆大気圏に突入した後も、観測装置をフル稼働させて土星の大気のデータを地球に送り続けるという。燃えつきる最後の瞬間まで。さよなら、カッシーニ。(史)

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