16世紀末から18世紀初めにかけてヨーロッパ各地で花開いた「バロック絵画」。その作品を一堂に集めた「バロックの巨匠たち」展が佐賀市の佐賀県立美術館で開かれている。会場に並ぶのはブリューゲル、レンブラント、ルーベンスら教科書にも載っている著名な画家の作品群。地方の美術館で、こうした巨匠の絵画を鑑賞できる機会はそう多くない。ぜひ会場に足を運んで、バロック絵画の特長である光と影のコントラスト、躍動感ある構図が生み出すドラマに触れてほしい。

 バロック絵画は、イタリアで生まれ、ヨーロッパの広範な地域でその土地の独自の風土とともに多様な展開をみせた。特にイタリアではキリスト教への熱意をかきたてられるような宗教的な作品が求められたという。こうした宗教画は神秘的で、日本人には何を表しているのか、よく分からないものが多い。このため、絵画に取り上げられた「場面」や「主題」、描かれる時の「約束事」を知ることができれば、理解がより深まる。

 例えば、今回の展示で同じタイトルの作品が2つある「エジプトへの逃避途上の休息」。これは、イエス・キリストを殺そうとたくらむヘロデ王から逃れるために、エジプトへ脱出するキリスト家族のつかの間の休息を描いたもので、聖家族を描く時にしばしば使われる場面だという。

 また、「東方三博士の礼拝」はキリストが生まれたことを星によって知った東方の博士たちが、生まれたばかりのキリストと聖母のところにきて礼拝する様子で、3人はそれぞれヨーロッパ、アフリカ、アジアを象徴している。今回展示されているブリューゲルの長男の作品「東方-」は、代表的な宗教的主題を扱いながらも、農村の人たちの様子を表すことで親しみやすさを出し、フランドル美術独自の存在感を見せている。

 一方、ヨーロッパで最初の本格的な市民社会が誕生したとされるオランダでは、芸術と宗教の関係が希薄になっていった時代背景もあって、肖像画や風景といった、分かりやすいものが人気を博した。

 その肖像画の代表とも言えるのがレンブラントの作品。展覧会のポスターにも使われている「襞襟(ひだえり)を着けた女性の肖像」は1644年作。大きな丸い襟巻きがとても印象的で、襞襟は当時、王侯貴族や裕福な市民の間で流行した。女性の肌の色合いや、襞襟の精緻な描写が見るものを引きつける。

 また、「だまし絵」的な興味をそそる作品もある。「花と果実とプットー(プットーは幼児姿の天使の意味)」は、よく見ると、天使の背中などに小さな虫や蝶(ちょう)などが描いてある。このような細工は、絵画を前にしないとなかなか気づくことはできない。

 会場に展示された絵画の大半が、数百年の時を経たと思えないほどみずみずしい色彩を放つ。「ルクレティアの死」の女性像の柔らかな肌の質感、ベラスケスの「自画像」に見る精神性に満ちた描写なども実際に作品に触れながら感じ取ってほしい。会場にある年表でも分かるように、日本ではこのころ本能寺の変や関ケ原の戦いなど戦国期が重なる。当時の日本とヨーロッパの時代や文化の相違を比べてみるのも楽しい。(丸田康循)

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