今月改造された安倍内閣に「働き方改革」の新ポストが設けられた。長時間労働の解消や正規と非正規労働者の賃金格差是正などに取り組むもので、「1億総活躍」に続く新たなキャッチフレーズと言える。「アベノミクスの恩恵が届かない」という不満が広がる中、雇用環境を改善し、消費拡大につなげていく狙いもあり、安倍政権の経済政策の成否にも関わる重要なポストとなりそうだ。

 安倍首相は内閣改造の会見で「非正規という言葉をこの世から一掃したい」という強い言葉で決意を示している。子育て中の女性や高齢者の人材活用などで「1億総活躍」と重なる点も多いことから、「1億総活躍」の加藤勝信担当相に「働き方改革」を兼務させている。

 労働行政には厚生労働省という専門省庁があり、「働き方改革」担当との役割分担はまだ明確でない。ポスト新設の狙いは、経済界や労働団体など多くの関係者との調整に、首相が積極的に関わるという意思表示でもあるだろう。

 名称の「働き方」という言葉には、国が労働者に意識改革を求めているように感じる。経済財政白書は、正社員の3割が月40時間以上残業しており、長時間労働が常態化していると指摘している。国は労働者が自ら「仕事中毒」になり、仕事と家庭のバランスを崩しているという見方に立っているのだろうか。

 労働者の意識改革だけで問題が解決するはずもない。その背景にあるものをもっと丹念に見るべきだ。企業は利益優先で、人件費削減のために雇用を抑制しがちだ。適切に人材を補充しなければ、従業員の負担は減らず、長時間労働の解消は空論に終わってしまう。

 従業員を酷使し、過労死やうつ病に追い込む「ブラック企業」の実態が示すように、生活のために仕事を辞めることができず、過酷な業務命令に従う労働者は多い。このような悪質なケースをなくすことを優先すべきだ。

 もう一つの課題である正規と非正規労働者の賃金格差解消は「同一労働同一賃金」という国際労働機関(ILO)の理念実現を目指す。厚労省の調査では、非正規の賃金水準は正規と比べ、欧州が8割程度に対し、日本は6割弱にすぎない。非正規労働者の最低賃金の引き上げを通じて目標に近づけたい。

 日本の貧困問題を考えたとき、非正規の多さをまず問題視すべきではないか。1990年代にバブル景気が崩壊してから企業は、賃金が低く、人員調整が容易な非正規の雇用を増やしている。そのために将来設計を立てられず、結婚や子どもをあきらめる若者が増え、少子化が加速している。

 一方で企業側の実情も考慮する必要があるだろう。今年の佐賀県内の最低賃金は過去最高の時給21円の引き上げ(715円)となったが、中小企業からは「これ以上続けば経営が厳しくなる」との声も漏れている。アベノミクスの恩恵が実感しづらい地方では従業員の待遇改善は容易ではない。

 働き方改革実現会議の初会合は9月に予定されている。経済界にはこれを機に「解雇の金銭解決」など雇用の規制緩和を求める声もあるようだが、国民の暮らしを豊かにするという原点を忘れてはならない。(日高勉)

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