東京大特任准教授の松尾豊さん=東京都文京区

ソフトバンクロボティクスの蓮実一隆さんと人型ロボット「Pepper」=東京都港区

囲碁ソフト「アルファ碁」との第3戦に敗れ、記者会見する李九段=3月、ソウル(共同)

駒沢大専任講師の井上智洋さん=東京都新宿区

◆収穫や廃炉作業も視野

 人工知能(AI)に注目が集まっている。近年、「ディープラーニング」(深層学習)と呼ばれる、50年来の大発明が成ったからだ。今後は車の運転や農作物の収穫など、人間が訓練や習熟によって担ってきた分野の仕事も、ロボットがこなせるようになる。日進月歩の人工知能の今に迫った。

 「ディープラーニングの後と前の人工知能は、できることが全く違う」。AI研究の第一人者、松尾豊東京大特任准教授はこう説明する。

 人工知能は、世界初の汎用(はんよう)電子式コンピューターが生まれてから10年がたった1956年、米国で初めてその名が生まれた。おおむね人間のように考える機械を指すが、明確な定義は現在もなされていない。

 誕生の背景には、20年後には機械が人間の知能を上回るという、当時の楽観的な予測があった。しかし実際は、IBMの「ディープブルー」がチェス世界王者に勝利して世界中の人々を驚かせるまでに、約40年の歳月を要することとなる。

 以前の人工知能は、どんな特徴に注目すべきかを、人間が決めて機械に入力する必要があった。例えば、イヌとネコを見分けるとすると、「目が丸い」のがネコ、「目が長い」のがイヌなどと特徴を入力することで、機械が分別できるようになる。つまり、入力されていない特徴や、その特徴を持たない種類を正確に判別することは難しいという限界があった。

 しかし、2006年ごろに研究が始まったディープラーニングを応用すると、何に注目すべきかを、人工知能が自ら判断できるようになる。

 膨大なデータを参照し、どんどん自分で学習して賢くなることが可能になったのだ。今年、世界トップ級の韓国人棋士に勝利したグーグル傘下企業の囲碁ソフト「アルファ碁」もこの技術を取り入れている。

 「練習して上手になることで担える仕事なら、人工知能が担えるようになる」と松尾さん。「原理的には、トマトの収穫判定や原発の廃炉作業も可能だ。これらの仕事は人手が足りておらず、速やかに産業用ロボットにして製品化すべきだ」と力を込める。

 「僕とお話ししませんか」。こちらを見つめながら、白い人型ロボットが話し掛けてきた。ソフトバンクが発売した「Pepper」(ペッパー)。孫正義社長の号令の下で開発され、「世界初の感情を持ったロボット」として登場。1万台が世に出ている。

 人の顔の違いを認識して記憶するほか、インターネットから自動的に情報を仕入れて雑談に応じてくれる。人見知りをしたり、特定の人を好きになったりもする。

 身長は121センチ。「この大きさには、かなりこだわった」と明かすのは、ソフトバンクロボティクスの蓮実一隆プロダクト本部長だ。「『おもちゃっぽさ』を抑えたのは、リスクを取ってでもロボット産業の未来を開いていくという、われわれの『本気』を伝えたかったからです」

 人間とロボットの距離感にも腐心した。「絶対に柵でペッパーを囲まない」。ソフトバンクはロボットが市民の間に普及する未来がそう遠くないとみており、今からロボットと人との触れ合い方の知見を集めようと考えた。「その意味で私たちは『宝物』を集めているんです。次の製品や研究に生かされるでしょう」

■労働者全人口の1割に ロボットが仕事を奪う? 

 機械がひとりでに学習するようになると、人間の仕事を奪ってしまわないか。駒沢大学の井上智洋専任講師(マクロ経済学)は新著「人工知能と経済の未来」で、2045年ごろには、労働している人間が全人口の1割ほどになる可能性があると指摘。人間の生活を保障するには、国が最低限の生活費を一律に給付する「ベーシックインカム」の導入が不可欠になると主張している。

 東京大学の松尾豊特任准教授によると、ディープラーニングを応用した人工知能により、農業分野では自動で耕運し、収穫できるようになって、休耕地も活用した効率的な生産が可能になる。建設分野では、掘削や基礎工事、外装・内装作業の効率が上がり、食品加工や物流分野などでの応用も期待される。

 「労働に対する価値観を変える必要がある」と井上さん。「ロボットの発達によって浮かび上がってきたのは、労働では規定されない、人間の生そのものの価値。ロボットによる失業で多くの人がつらい思いをする前に、ベーシックインカムを取り入れておく必要がある」と強調した。

=転換への一歩= 

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