国営諫早湾干拓事業の和解を巡る協議で、これまでは「開門しない」前提を掲げてきた長崎地裁が方針を見直し、和解案と並行する形で開門を含めた議論もできないかを探り始めた。

 ようやく、議論の環境が整いつつあると言えるだろう。この提案に対して営農者側が即日、拒否する考えを伝えたのは残念でならないが、これまでの和解案に盛り込まれた「開門しない」という前提はあまりにも一方の主張に偏り、バランスを欠いていたのは明らかである。

 地裁がこれまでの方針から転換し、開門の可能性に踏み込もうとしている姿勢は、率直に評価したい。開門派の弁護団も「かろうじて要求を受け入れてもらった」と述べている。

 新たな提案では、開門を含めた議論を営農者側が検討することを条件にして、漁業者側に、従来の「100億円基金案」の話し合いを続けるよう求めている。

 これを、行き詰まりつつある和解協議を何とかして決裂させないための、地裁の“戦術”にすぎないのではないかと、冷ややかに見る向きもあるだろう。

 だが、ここに至るまでに、和解協議は1年以上続き、協議は14回にも及んでいる。これまで門前払いだった「開門調査」の是非が議題に上がるのは、ひとつの前進ではないだろうか。粘り強く主張し続けてきた漁業者側の努力が実りつつあるのだと思いたい。

 地裁の提案は、従来の基金案と並行する形で、新たに開門調査の可能性を検討していくという考え方のようだ。

 従来の基金案は「有明海振興基金(仮称)」が柱になっている。潮受け堤防の開門はしない代わりに、総額100億円以上をかけて有明海再生のための事業を行うという計画である。

 基金案の最大の問題点は、漁業者側が求めてきた開門調査がそもそも排除されている点だ。しかも、100億円を使い切れば、有明海が再生したかどうかにかかわらず、事業は打ち切られてしまうという。これでは根本的な解決にはなりはしない。

 いかに解決へと導くか。複雑に絡み合った利害を少しずつ解きほぐし、双方に実りをもたらす道を探るしかないだろう。

 ここは、開門するよう命じた福岡高裁判決が出された当時の案に立ち返ってはどうだろうか。開門しても農業への影響が出ないよう十分に対策を施した上で、開門調査を実施するわけだ。

 有明海再生はもはや待ったなしだ。潮受け堤防を閉め切った、いわゆるギロチンからまもなく20年を迎える。

 ここまで事態がこじれた責任は、ひとえに国の不作為にある。国は開門を命じる判決と差し止め判決の「二つの相反する司法判断」を理由に、自ら解決に乗り出そうとはしてこなかった。開門するまで科せられている「制裁金」にしても、垂れ流しの状態が続く。国は当事者意識に欠けているのではないかと思えてならない。

 次回の協議は3月27日に開かれる。この問題は、佐賀、長崎の地域対立を引き起こし、漁業者の間にも分断を生じさせた。この不幸な対立に終止符を打つため、長崎地裁には引き続き力を尽くしてもらいたい。(古賀史生)

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