亡(ほろ)びつつあった江戸情緒と散歩を愛した永井荷風(1879~1959年)。美に耽(ふけ)った作家であり、小説よりも日記が人気だったりする。きょうは荷風の命日◆小説家の林芙美子も荷風の愛読者だった。彼の『ふらんす物語』に触発され、芙美子自身もパリに滞在し、作品を残している。荷風は明治の時代において、文学者になることをはっきり目的として、そのためだけに外遊した唯一の人という。評論家川本三郎さんの『荷風好日』(岩波書店)に紹介されている◆父親が明治の超エリートだったからできたことだが、荷風自身のフランスへのあこがれも特筆すべきものだ。かの地の見聞記である『ふらんす物語』を読めば分かる。「嗚呼(ああ)わが仏蘭西(ふらんす)。自分はどうかして仏蘭西の地を踏みたいばかりに此(こ)れまで生きてゐ(い)たのである」などという絶賛ぶりである◆あまりにかぶれてしまって、本当のフランスを描いていないとの批判もあるほど。翻って現代、この欧州の大国に世界の耳目が集まる。国のトップを決める大統領選で、中道・独立系のマクロン氏と極右・国民戦線のルペン氏による決選投票が迫る◆国際社会との協調か、自国第一主義で国を閉じるのかの岐路に立つ。荷風が心を寄せた国の人々の選択はEU(欧州連合)や欧州の命運をも左右する。その結果に、要注目である。(章)

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