原子力規制委員会は、福島第1原発事故を起こした東京電力が運営する柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)を優先審査する方針を固めた。順調に審査が進めば、年度内に合格する見通しで、福島と同じ沸騰水型での第1号となる。ただ、福島の事故が収束したと言えない状況で東電の原発が再稼働の動きを早めることには、地元から疑問の声も上がっている。

 これまで規制委の安全審査をクリアした原発は、九州電力の川内1、2号機(鹿児島県)、関西電力の高浜1~4号機(福井県)と美浜3号機(同)、四国電力の伊方3号機(愛媛県)で、全て西日本の電力会社の加圧水型だ。

 沸騰水型は国内30基中17基を東京電力が運営しており、人材、経験値とも他社と比べ、豊富なことが今回の優先審査の背景にあるのだろう。とはいえ、国民の感覚からすれば、「東電優先」はまさかの思いではないか。

 福島原発事故から5年が過ぎたが、原発周辺の住民は今も故郷に帰ることができない。東電が事故の賠償金や除染費用が必要だからと再稼働を急ぐのは、被災者にとって割り切れないだろう。

 また放射性物質の汚染水の流出を防ぐために、福島第1原発を取り囲むように「凍土遮水壁」をつくっているが、一部で土が凍らず、その効果は不透明だ。いつになれば、国や東電は放射性物質を完全に制御し、事故は収束するのか。先は見えない。

 東電の隠蔽(いんぺい)体質への不信感も根強い。福島の事故時に、当時の社長が「炉心溶融(メルトダウン)の言葉は使うな」と隠蔽の指示を出していたことを今年6月になって、ようやく認めた。

 東電は今月25日、事実関係の説明を求めていた新潟県に常務を派遣して謝罪したが、同県の泉田裕彦知事は「炉心溶融が伝わらなければ、住民の避難に影響が出る。何が問題で言えなかったのか明らかにすべきだ」と注文をつけた。原発立地自治体のトップとして当然の憤りだろう。

 事故の初動対応でも問題はなかったのか。最初から官邸との連絡を密にしていれば、原子炉に冷却水を注ぐための電源車の配備など、もっと迅速な対応ができたのではないか。企業として、「人災」に対する総括が終わっていないように思える。

 東電が柏崎刈羽原発を再稼働するには新潟県の同意が事実上必要だが、泉田知事は「福島の事故の検証なしには再稼働の議論はない」と強い姿勢を示している。

 昨年8月に川内1号機が再稼働したのを皮切りに、安全審査に合格する原発が続いている。その流れで関西電力の高浜と美浜の老朽原発までが延命措置で審査をクリアした。安全性を高めるための「稼働40年制限」のルールが形骸化しようとしている。

 そして今度は福島の問題を抱える東電の原発が合格への“レール”に乗った。規制委は原発に依存していた時代へ時計の針を戻しているようにも見える。

 しかし、再稼働したばかりの高浜原発の運転を大津地裁が差し止めたように、司法は規制委の判断に必ずしも納得していない。規制委や電力会社は国民の不安に正面から向き合うべきだし、国民との信頼構築ができなければ、原発の運転は任せられない。(日高勉)

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