貝原益軒が健康の指南書ともいえる『養生訓』を著したのは1713年、84歳のとき。江戸時代随一のロングセラーで、近代になっても息長く読み継がれた◆〈養生の術をまなんで、よくわが身をたもつべし。是(これ)人生第一の大事なり〉。真っ先に出てくる言葉だ。病気の歴史に詳しい立川昭二さんの『日本人の死生観』によると、江戸時代には今日の「健康」という言葉はなく、それにあたるのが「身をたもつ」であった◆「健康こそ第一」の考え方は、当時は極めて革新的な思想だったようだ。武士には主君のために身命を捨てるという道徳がまだあり、庶民もその影響を受けていたからである。『養生訓』の考え方は、その後の日本人の死生観にまで深く根をおろしたという◆益軒は健康の秘訣(ひけつ)を〈心は楽しむべし、苦しむべからず。身は労すべし、やすめ過すべからず〉と説く。心は楽にして過度に悩まないこと。体を使い、いたわりすぎてもいけない―ということだろう。これぞ長寿法の神髄とみた。生きていれば楽しいことばかりではないが、自然体で、何とかなるさの精神を持ち、日々を送りたいものだ◆厚生労働省の調査で、全国の100歳以上の高齢者が6万7千人を超え、過去最多となったという喜ばしい報も届いた。きょうは「敬老の日」。それぞれの長寿を言祝(ことほぎ)たい。(章)

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