ロシアや中国でインターネット規制を強化する法改正が相次いでいる。テロ対策を筆頭に、うそや憎悪などが無秩序に拡散され、公共の安全が脅かされるとの理由からだが、これらは表向きの説明で真の狙いは監視強化とされる。ネットの負の部分は認めるが、自由な言論空間への権力の介入を招くべきではない。

 ロシアでは匿名で会員制交流サイトを利用できないようにする法改正が上下院を通過、プーチン大統領が先月末に署名、成立した。11月1日発効で、通信時に暗号などを用いて第三者の閲覧や侵入を防ぎ、利用制限や検閲をかいくぐることができる仮想プライベートネットワーク(VPN)が原則利用できなくなる。

 人権団体などは、当局や情報機関が、ネット上の私的な通信やウェブサイトの閲覧記録を監視したり、傍受したりできるようになるとして批判を強めている。

 グーグルやフェイスブック(FB)、ツイッターなどが基本的に利用できない中国でも規制の動きは加速している。

 6月に施行された中国インターネット安全法は、ウェブサービスを受ける利用者の個人情報登録はもちろん、事業者には国家の安全のための技術供与や協力を義務付けた。個人情報の国家管理を明文化し、ニューヨークタイムズは「これは中国政府が長年目指してきたものだ」と伝えた。

 施行法の目的は、サイバー空間における政権転覆やテロの扇動、憎悪や差別の拡散、暴力やポルノの流布、デマを通した社会秩序の混乱を防ぎ、市民や企業の公的利益を保護するため、とうたう。理念はもっともであり異論はない。

 実際、虚偽や誹謗(ひぼう)中傷、人権侵害などネットの闇は罪深い。FBは今月初め、ヘイトスピーチ対策として、全世界で問題があった投稿を1カ月当たり約28万8千件削除したと明かした。

 国内でも事実無根の中傷の書き込みは後を絶たない。法務省によると、全国の法務局が救済手続きを始めたネット上の人権侵犯事件は昨年、1909件(前年比10%増)で過去最多を更新。摘発にいたるケースは少なく、書き込みがあったサイト運営者に要請しても削除に応じないケースも多い。

 それでも主張したいのは、国家による規制は反対だ、ということだ。

 ネットはテロリストの連絡に使われるし、思想の拡散を手助けしている。誹謗中傷をしたい歪(ゆが)んだ欲望を満たしてもいる。だが間違ってはいけないのは、ネットがテロを、ヘイトを生んでいるのではない、ということだ。ネットはあくまでツールだからだ。

 国家に介入を許す口実を与えてはいけない。権力はそれ自体を維持するためなら何でもやる。ひとたび規制が入り監視を受け入れたら、私たちは知らずと同調的な行動をとり、反対を口にせず、多様性を認めない息苦しい社会になることを歴史から知っている。

 国内でもネット規制がかまびすしく語られる日が来るだろう。そのとき、権力の介入を招かないようリテラシーやモラルを高める教育を進め、サービス提供者側の適正な運用とそれを助けるテクノロジーの開発などを通し、自分たちの世界は自分たちで守れるようにしておきたい。(森本貴彦)

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