筆先に集中する本島悟さん。「描くときは呼吸を止るぐらいでないとないと思い通りにはいかない」と話す=有田町の今右衛門窯

窯の作品を持つ本島さん。見本に忠実に、線の正確さ、丁寧さを心がける

 ■花びら一枚一枚に濃淡

 左手の親指の爪にスポイトで水滴を乗せる。表面張力で球のようになった水滴に、筆の穂先を「ちょんと刺す」ように当てて絵の具を薄め、直径1センチほどの花を形作る花びらの先端を塗る。

 「花びら一枚一枚にも濃淡がある。色の濃さを変えれば立体感が生まれる」。絵の具の上澄みを使ったり、中ほどを狙ったりと、目指す色を作り出し、「花に命を吹き込む」作業を続ける。

 変化を心がける花とは対照的に、ひし形などの文様は線の太さや色、間隔が均一になるよう気を配る。いずれも集中力と根気が必要な作業。「仕事中はあっという間に時間が過ぎる。それだけ自分の世界に入り込めているのだろう」と話し、「上絵付けは失敗してもやり直すことができる。もう一度描くのはつらいけど、気分的に安心感がある」と笑う。

 有田町の窯元や焼き物店が並ぶ地区に生まれ、自宅で作業する近所の絵付け職人の姿を見ながら育った。有田工高機械科を卒業後、「何も知らない真っ白な状態」で今右衛門窯に入った。職場ではベテラン職人に挟まれて座り、筆の運び方から教えてもらった。最初は花や鳥を一筆描いては先輩に見せ、OKが出るまで何度も描き直した。「基礎からみっちり教えてもらった。あの時間があったから、今仕事ができている」と感謝する。

 窯に入ったときのベテラン職人は祖父母の年代。卓球や野球などのレクリエーションや職場の旅行などで親しくなり、仕事上の教えを受けてきた。そんな家族的な雰囲気が伝統をつなげてきたと感じる。後輩を指導する立場となり、教えを請いやすい雰囲気づくりも大切と感じている。

 入窯したときと比べると、筆やニカワなどの道具や材料も微妙な変化がある。以前と変わらぬ仕上がりになるよう現場で対応することもある。それでも「時代が変わっても職人の仕事は体で覚えるしかない。できるまで何度も繰り返すことが大事」と力を込める。

 上絵付け一筋に35年間、職人として歩んできた。最も大事にしているのは「見本に忠実に、全体のバランスに気を配ること」。「線の一本一本を正確に丁寧に描き続けるしかない」と思い定めている。

 もとしま・さとる 1962年有田町生まれ。56年有田工高機械科卒。同年今右衛門窯に入社。2004年伝統工芸士(上絵付け)認定。勤務先=今右衛門窯

 【写真】筆先に集中する本島悟さん。「描くときは呼吸を止めるぐらいでないと思い通りにはいかない」と話す=有田町の今右衛門窯

 【写真】窯の作品を持つ本島さん。見本に忠実に、線の正確さ、丁寧さを心がける

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