九州新幹線長崎ルートを巡る議論は、導入予定だったフリーゲージトレイン(軌間可変電車、FGT)の開発遅れでFGT以外の選択肢も含めた整備方針の検討という思わぬ事態に陥った。全線フル規格化やミニ新幹線などが議論の俎上(そじょう)に載せられようとしているが、県民的な議論で冷静に最善の選択を考えたい。

 8月下旬から9月初めにかけ、佐賀新聞社と長崎新聞社は合同で佐賀、長崎県民100人ずつにアンケート調査を行った。長崎ルートの必要性に対する認識は、両県とも「必要」または「あった方がいい」との肯定的な意見が6割を占めた。ただ整備方法を巡っては、長崎県で「全線フル規格化」が4割を超えるなど突出したが、佐賀県は「全線フル規格化」「リレー方式の継続」「在来線のまま」の三つに意見が割れ、両県で温度差が感じられる結果となった。

 佐賀県でもフル規格が32%と最多となったが、巨額の財源問題を説明すると、リレー方式などに意見を変える人が見られ、28%に下がった。一方で「FGT開発までリレー方式の継続」「FGT開発まで開業延期」を合わせると34%。現時点で「FGTの開発を待つ」が県民の最多意見といえる。

 フル規格は、時短効果や乗り換えなしで関西圏まで行ける利便性などのメリットに目を奪われがちだ。ただ、全線整備となれば、建設費は武雄温泉-長崎間の約5千億円を含めトータルで約1兆円に及ぶとされる。整備新幹線事業は北陸ルートの新大阪延伸(2046年度ごろ開業)まで予算配分が決まっているが、その先は全く見通せない。建設費に充てるJRからの貸付料は2060年度まで既に当て込んでいる。国に財源の手当てを求めるのは容易ではない。

 さらに事業期間はルート選定から、地元同意、環境アセス、用地買収など積み上げていくと20年近くかかるとの指摘もある。人口減少、少子高齢化が加速する中、医療や福祉など必ず必要になる将来への備えを圧迫せずに財源を確保できるのか。巨額の血税を投じて、「期待した事業効果は得られなかった」では後世に説明がつかない。佐賀、長崎県にとどまる問題ではないと再認識したい。

 調査では、今後の整備方法で選択肢の一つにミニ新幹線を盛り込んだが、佐賀、長崎とも選択した県民は1割を下回った。これは単純に評価が低いと捉えるのではなく、これまでミニ新幹線に関する議論がなく、認知度、情報不足の影響と考えるのが自然だろう。

 与党検討委では今後、フル規格とミニ新幹線について工期や費用などの試算を踏まえて整備のあり方を議論するとしている。一方で、国はFGTの開発継続を掲げ、実用化を諦めていない。

 関係者の理解と同意を得ている経緯から考えると、FGT導入による全面開業こそ最善の道ということは言うまでもない。実用化の時期が不透明になったことで、直ちにFGTを捨てて、フル規格やミニ新幹線の議論に移るのは短絡的だ。「FGTの開発を待つ」の意見が多い現状を考慮すべきだ。

 まず国がFGT実用化の時期の見通しを示し、工期や追加負担の有無、費用対効果などを踏まえてFGTも含め冷静に比較、検討することが望まれる。(梶原幸司)

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