高齢者の運転免許返納を促すさまざまな施策が始まっている。75歳以上の運転者への認知機能検査を強化する改正道交法が3月に施行され、佐賀県のタクシー業界は返納者への料金割引制度を始めた。県内自治体でも、タクシー券交付や自治体運営バスの割引など、助成制度を新設している。

 改正道交法は、75歳以上を対象に3年ごとの免許更新時に認知機能検査を義務づけた。認知症の疑いがあると判断された場合は医師の診断書の提出を求め、認知症なら免許停止か取り消しになる。これまでは、疑いがあっても逆走や信号無視などの違反がなければ診断を受ける必要はなかった。

 更新時に疑いがなくても一定の違反をすれば臨時検査を受けることも義務づけた。改正法は認知症ドライバーを早期に見つける機会を増やしたのが特徴といえる。

 道交法の改正に合わせ、佐賀県バス・タクシー協会と個人タクシーは、運転免許を自主返納した65歳以上の人に運賃を1割引きするサービスを始めた。“代替の足”を使いやすくして、返納を後押しする取り組みだ。

 自治体も呼応している。佐賀新聞社の調べでは、県内自治体で運転免許返納者への助成制度を持っているのは4月から始めた4市町を含めて9市町。内容は、4市町がタクシーの無料チケットや割引券を交付。別の4市町は自治体運営のコミュニティーバスなどを無料化したり割引をしたりする。鳥栖市は民間のバス乗車券の購入費の7割を助成している。ただ、制度を持つのは県内20市町の半数に及ばない。先行例を参考に地域に合った助成策を設けたい。

 法と支援制度は整ってきたが、まだ必要なことがある。「返納を促すノウハウ」だ。本人に認知症の自覚がない場合など、家族が苦労するケースは少なくない。国立長寿医療研究センターが作成し、ウェブ上で無料公開している「家族介護者のための支援マニュアル」を参考にしたい。マニュアルではアルツハイマーなど認知症の症例をあげて返納に至った10の事例を紹介。家族が症状を理解することや、代替交通機関の把握、専門医への受診などで返納に至った経緯を解説している。自主返納が難しく、警察に医師の診断書を提出して免許取り消しになった例もあった。

 県警は昨年4月から佐賀市の運転免許センターに専門知識を持つ医療系の運転適性相談員2人を配置、相談に応じている。こうした対応策も活用し、専門家の意見に基づく説得も考えたい。

 車検などの機会に、車に必要な経費を算出して家族で考えることも有効だろう。燃料費、保険代、自動車税、車検費用など、車を所持、維持する費用は結構多額だ。タクシー業界の割引制度なども合わせ、どの程度“代替の足”が使えるのか具体的に算出してみたい。認知症でなくても、元気な時から返納を意識するために家族で話し合う機会にできないだろうか。

 昨年、佐賀県内の65歳以上で運転免許を自主返納したのは1375人で、うち75歳以上は925人。いずれも過去最多で5年前の3倍に増え、返納への意識や関心の高まりを裏付ける。ただ、車を手放すことには大変な決心がいる。多面的な支援で自主返納できる環境を整えたい。(小野靖久)

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