■静けさに「やつしの美」 

 山あり海あり自然ありの、人の心がなごむ太良町竹崎を訪れた。年に一度の友人たちとの日帰りグルメ旅行のためである。おいしいカニとカキをおなかいっぱいいただいた。老舗の旅館の若女将( おかみ )の心あるおもてなしに、一行大いに満足して帰途に着いた。

 2日後、再び機会があって太良町を訪れた。竹崎城の見える静かな港の風景を描くためである。その港は道越漁港という。前述の美人の女将さんが教えてくださった。

 この小さな漁港の静かなたたずまいに魅せられる。修理のためか岸壁に漁船が揚げてある。カキ養殖の漁具が広げてある。対岸の山や家々には人影もなく、穏やかな海面にその影を映している。

 港全体が時の移ろいの中で退色したような、地味で寒々しい風景に「やつしの美」を感じる。やがて海の方からの風がそっと早春の香りを運んできた。

(佐賀女子短期大学名誉教授・山田直行)

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