兼業農家が多い集落の特性を生かし、農機の格納庫や育苗施設の造成建設まで自前で取り組んだ農事組合法人「行合野」のメンバーたち=唐津市北波多

 「サラリーマンで稼いだ金を農機につぎ込むようでは、この先は農地を維持することもできない」-。2006年3月、唐津市北波多の行合野(ゆきあいの)地区で、農事組合法人「行合野」の設立委員会が立ち上がった。当時、県内には集落営農の法人化の取り組み事例がほとんどなかったが、この地域の農業のあり方を大きく転換する試みとして始まった。

 組合員41戸で、経営面積は21ヘクタール。全てが平均40~50アールの零細農家だ。「休みはすべて農作業。コンバインを買うとなると、互いに保証人になってローンを組んだりもしよった」。金丸甚三郎代表理事(71)の言葉に、複雑な思いを抱えながらもふるさとの農地を守ってきた自負がにじむ。

 同地区は中山間地に分類されていないものの、山々に囲まれ、水害の常襲地でもあるため、大豆転作や施設園芸が難しい土地柄。稲作のみで生計を立てることは難しく、古くから兼業化が進んだ。作業や管理時間が制限されるため、兼業比率が高いと一般には弱点とされるが、建設業や農協・行政の職員など、兼業ゆえの多彩な人材を活用することで強みに変えた。

 農地の区画が小さいために、機械利用の効率が思うほど上がらなかったが、農地の境目のあぜを取り払う工事を自前で重機を持ち込んで行い、作業時間を大幅に短縮。水稲の育苗共同化に際しては、土地の造成から農機格納庫の建設まで手がけた。金丸代表は「子どもの頃からの顔見知りであうんの呼吸。農地をみんなで守る意識付けになり、経費の面でも助かった」と胸を張る。

 法人化を機に作付作物を見直し、麦や収益性の高いWCS(稲発酵粗飼料)用稲、タマネギ栽培を本格的にスタートさせ、農地の維持だけでなく、収益拡大も意識した農業への転換を図った。タマネギは生食用のほか、食品業者に製造委託した無添加のドレッシングを地元直売所で販売するなど、多角経営に向けた将来の布石を打った。3年目からは精算でプール方式を導入して作業賃金を時給800円に統一するなど、経営組織としての近代化にも取り組んでいる。

 県内第1号の法人化事例としてトップを走り続けてきた組織は今、農機のオペレーターや経営の後継者育成という大きな課題に直面している。「若い世代がどこまで付いてきてくれるか心配はあるが、今自分たちが元気なうちにやれることはやっておかないと」と金丸代表。地域の底力が試されている。

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