夜空を焦がすように無数のろうそくが灯(とも)されたパゴダ(仏塔)は、厳かな雰囲気に包まれていた。ミャンマー中部の小都市メッティーラ。ちょうど雨期明けを告げる仏教行事「灯明祭」の日だった。旅したのは、もう16年も前になる◆雨期の間、天上界での説教を終えた仏陀(ぶっだ)が、下界に降りるその日、迷わないようにと数限りない明かりで迎える。灯火(ともしび)と香の匂い―。この国には祈りの光景が全土にあった◆国民の9割が敬虔(けいけん)な仏教徒という信仰の国である。だからなのか。イスラム教徒の少数民族ロヒンギャへの差別がひどく、自国民族と認められていない。国軍による掃討に脅かされ、隣国バングラデシュに脱出した難民は30万人を超えた◆多民族国家ゆえ、治安を保つには軍の力が必要なのだろうが、政権を率いるのは民主化運動の象徴で、ノーベル平和賞を受賞したアウン・サン・スー・チー氏だ。同じ平和賞受賞者のマララさんが対応を促す声明を出したのもうなずける◆国連はじめ、国際社会から強まる圧力に、スー・チー氏は消極的な対応しかとっていない。たとえ軍や仏教徒から責められようとも、人権侵害を見過ごすことは許されないのに。ただただ穏やかな暮らしを望む人々の祈る心は、宗教の隔たりなどなく平和の姿そのものである。そんな国に迫害は似合わない。(章)

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