政府は、天皇陛下の退位を実現する特例法案の骨子を各党派に提示した。法案名は「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」とする。法案の冒頭に明記する「退位に至る事情」では、陛下は被災地訪問など象徴としての活動の継続が高齢のため困難になることを「深く案じておられる」とし、この「お気持ち」に国民が共感しているとした。

 当初の骨子案は衆参両院の正副議長が先に取りまとめ安倍晋三首相に提出した国会見解とは、いくつか異なる点があった。見解は法案名に一般用語としての「天皇」を用い、将来の先例となるのを明確にした上で、昨年8月のビデオメッセージで陛下が伝えられた「お言葉」や「お気持ち」を明記すべきだとした。

 これに対し政府、与党は「天皇」ではなく「天皇陛下」とすることにより、あくまで陛下一代限りの例外的措置と強調することにこだわりを見せた。また「お気持ち」についても、天皇の国政関与を禁じた憲法に抵触する恐れがあるとし、活動の継続につき陛下が「ご心労を抱かれている」という表現にとどめた。

 結局、民進党との協議を経て、ほぼ国会見解通りに戻り、法案成立の環境は整った。だが、まだ大きな課題がある。皇族減少で先細りしつつある皇位継承をいかに安定させるかだ。根強い反対も予想されるが、一刻も早く女性宮家創設などの議論に取り掛かりたい。

 陛下の退位が実現すれば、皇位継承問題の深刻さは一層鮮明になる。現在、皇位継承資格者は4人。皇太子さまが新天皇に即位されると、皇太子さまより若い資格者は秋篠宮さまとその長男悠仁さまの2人だけだ。また未婚の女性皇族は7人いるが今後、結婚による皇籍離脱が続き、天皇を支える皇族が減少の一途をたどる可能性もある。

 2005年に当時の小泉純一郎首相の下で女性・女系天皇を容認する動きがあった。しかし06年の悠仁さま誕生で先送りされ、12年には旧民主党政権が、女性皇族が結婚後も皇室に残る女性宮家創設を巡る論点整理を公表したものの、政権交代で立ち消えになった。

 今回、政府は女性宮家創設の検討を退位の法整備から切り離し、政府が設置した有識者会議も取り上げなかった。一方、国会見解は民進党の主張を取り入れ「女性宮家の創設等」について政府に速やかな検討を促し、その旨を法案の付帯決議に盛り込むよう求めた。

 だが与野党の溝は深い。与党の付帯決議案は「安定的な皇位継承を確保するための諸課題」を検討すべきだとしているが、女性宮家など具体策への言及はなく、検討の期限も設けてはいない。

 安倍首相は今年1月の国会答弁で皇位の安定継承に向けた方策を検討する必要性は認めた。ただ念頭にあるのは戦後に皇籍を離れた「旧宮家」の復帰だ。自民党を支える保守層には女性宮家が女性・女系天皇につながることへの警戒感が根強い。皇室典範が定める「終身在位」と「男系男子による皇位継承」は譲れない一線になっている。

 とはいえ、旧宮家の復帰を巡っては、長年にわたり一般人として過ごしてきた人たちが国民に皇族として受け入れられるかとの疑問が指摘されている。また何より、本人の意思を尊重しなくてはならない。女性宮家創設とともに突っ込んだ議論が必要になるだろう。(堤秀司)

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