きっと内なる声に突き動かされる旅を指すのだろう。「『北上』すべき『一号線』はどこにもある。私にもあれば、そう、あなたにもある」-。沢木耕太郎さんの紀行『一号線を北上せよ』(講談社)で、象徴的に用いられている一号線とは、ベトナムを南北に貫く道である◆ベトナムを訪問されている天皇陛下にとっては、戦後50年の節目に始められた「慰霊の旅」がまさに一号線の旅に違いない。長崎、広島、沖縄を経て、サイパン、パラオ、そして昨年はフィリピンへ。いずれも、先の大戦の記憶が色濃く残る土地ばかりである◆ベトナムにはかつて、ベトナム名を名乗り、「新ベトナム人」と呼ばれた日本人がいた。太平洋戦争後も現地に残った元日本兵で、その数は600人ほど。今回、陛下は現地に残されたベトナム人妻や子どもたちと面会される◆元日本兵らは、建国の父ホー・チ・ミン率いる独立運動へと身を投じ、第1次インドシナ戦争を戦った。ベトナム人女性と結婚し、子どもをもうけたが、帰国に当たって同行は許されなかった。残された家族は偏見にさらされ、日系2世であることを隠し続けてきた人も少なくない◆陛下の旅に促されるようにして、私たちは埋もれてゆく戦争の記憶をたどってきた。平和を願う、静かで固い意思。陛下の一号線を北上する旅は続く。(史)

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