アラスカの動物と自然、そこで暮らす人々を心から愛した写真家の星野道夫。取材中にヒグマに襲われ、43歳で命を落とした。21年前のことだ。その現場であるロシア極東カムチャツカ半島南端のクリール湖を、21日付の佐賀新聞で紹介していた◆今、湖では野生のヒグマ観察が旅行者に人気だそうだ。当時、星野はなぜ襲われたのか。アラスカ大学で野生動物の行動を学び、ヒグマを愛した人だったのに◆『星野道夫 永遠のまなざし』(山と溪谷社)によると、友人らが突き止めた事故の原因はこうだ。襲ったヒグマは地元テレビ局関係者に、撮影のため餌付けされており、人慣れし人を襲いやすくなっていたという。事故は避けることができたというのが結論だ。人間が野生動物と接する時の不文律を犯したのである。何も知らされてなかった星野が犠牲となってしまった◆星野は自然の尊さや厳しさ、そして畏怖を教えた。氷上でくつろぐホッキョクグマやアザラシの赤ちゃん、神秘的なカリブーの大移動、狩猟民のクジラの解体…。思い入れ深く切り取った写真や珠玉の言葉と出合える作品展が、久留米市美術館で開かれている(9月3日まで)◆「私たちもまた、無窮の時の流れの中では、ひと粒の雨のような一生を生きているに過ぎない」。自然の前で謙虚だった彼の言葉である。(章)

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