老後の暮らしを支える公的年金で積立金の運用損失が続いている。2015年度は年間で5兆3千億円の赤字となり、16年4-6月期の3カ月でさらに5兆2千億円の損失を出した。アベノミクスが順調に進んでいた14年秋に運用のあり方を見直し、「ハイリターン」が見込める株式の比重を高めたが、株価の下落で裏目に出た形だ。政府は「長期的には利益は出せる」というが、「ハイリスク」の運用をこのまま続けていいのか異論も出ている。

 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が運用するのは、現役世代が支払う厚生年金や国民年金の保険料収入の余剰分で総額130兆円になる。その額から世界最大級の機関投資家といわれる。当初は国債など安全な債券中心の運用を続けてきたが、「異次元の金融緩和」で債券の利回りが低下したため、14年10月から高い運用益が見込める株式の比率を24%から50%へと倍増させた。

 初年度の14年度は期待通りに過去最高の年間15兆3千億円の運用益を出したものの、翌年度は赤字に転落した。14年秋の運用見直し時点と比較すると、1年9カ月で1兆1千億円の損失を出した。中国など新興国の景気減速やイギリスの欧州連合(EU)離脱による株価低迷が背景にあるというが、それぐらいのマイナス材料は当然考慮しておくべきだろう。

 世界的な金融危機リーマン・ショックが発生した2008年度は9兆円の損失を出しているが、もし現在と同じ株式重視の運用をしていれば、26兆円の損失が出ていたという政府の試算もある。専門家から「年金基金の運用にしては株式の比重が高すぎる」という指摘も出ている。

 官邸や厚生労働省は動揺を沈めようと躍起で「短期的な変動に過度にとらわれるべきでない。年金財政上の問題は全く生じていない」(菅義偉官房長官)と繰り返す。しかし、運用見直しで出た評価益を「アベノミクスの成果」と誇っていたのは安倍首相本人だった。損失の過小評価は少し都合のいい解釈ではないか。

 政府の狙いは年金の運用益を出すことだけではない。年金マネーを国内の株式市場に流し込むことで株価上昇の相乗効果を期待した。運用先は東証株価指数(TOPIX)を構成する銘柄が多い。

 年金マネーだけでなく、日銀も上場投資信託を従来の2倍の6兆円まで買い増し、株価対策に寄与している。株価の上昇が国民にとってわかりやすい「アベノミクス成功」の指標であり、政権側はそのために、あらゆる手を講じているともいえる。

 ただ、政府が介入する官製相場となってしまい、株式市場がゆがめられたという指摘は少なくない。年金運用団体や日銀など「公的マネー」が筆頭株主という民間企業が増えている。公的マネーで株価が水増しされているために、企業経営の実態が見えにくくなってしまったとの批判もある。

 7月の参院選では直近の5兆円損失は判明しておらず、民進党は秋の臨時国会で年金問題を積極的に取り上げる考えだ。ハイリスクな運営で巨額な損失が続けば、私たちの老後を支える年金制度が危ぶまれる。誰のための年金なのか、その原点を踏まえた議論を国会で見せてほしい。(日高勉)

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