日本国憲法は1947年の施行から70年を迎えた。安倍晋三首相は在任中の憲法改正に強い意欲を示し、改憲に前向きな勢力が衆参両院で改憲発議に必要な議席を占める国会では、憲法審査会で議論が行われている。

 現憲法は70年間、一言一句変わっていない。その間、社会の在り方や国際情勢が大きく変わったのは事実だ。しかし憲法が掲げる基本的な理念は古びているだろうか。

 時代の変化に合わせて見直すとしても問われるのはその方向性だ。求められるのは憲法の基本理念を充実させ、より良きものへ磨き上げていく建設的な論議である。「古希の憲法」の普遍的価値をあらためて確認したい。

 憲法審査会での各党の議論で一致するのは国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の三つの基本原理は国民に定着しており、今後も堅持するという点だ。しかし、これらの理念は本当に守られていると言えるだろうか。

 まず国民主権。2014年の前回衆院選の投票率は52%と戦後最低を記録した。今の国会は主権者の代表であると胸を張れるのか。安倍政権は15年末、憲法の規定に基づいて総議員の4分の1以上が要求した臨時国会の召集を拒否した。主権者の意思の無視ではないか。

 沖縄では国政選挙で主権者が示した「基地反対」の声に反して、米軍基地の移設工事が進む。

 基本的人権はどうか。3月に東京都内で81歳の妻を殺害して逮捕された84歳の夫は「認知症の介護に疲れた」と供述した。「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」は保障されているのか。

 北陸の都市では憲法記念の集会が「中立性の確保」を理由に会場使用を拒否された。表現や集会の自由はどこへ行ったのか。そして今「内心の自由」を侵す恐れが指摘される「共謀罪」法案が国会で審議されている。

 平和主義の揺らぎは言うまでもないだろう。「積極的平和主義」の名の下、安全保障関連法の制定で自衛隊の海外での武力行使に道が開かれた。

 戦後の占領下、憲法の草案は連合国軍総司令部(GHQ)によってつくられた。だがそれを受けた日本政府の原案は、女性の選挙権を初めて認めた普通選挙で選ばれた国会の審議で多くの修正が加えられている。

 70年はただ憲法の文言を固守してきた歴史ではない。権利を訴える声や裁判闘争を積み重ね、憲法の内実は具体化していった。その一方でいまだ理念に達していない現実もあるということだ。

 安倍首相は改憲派の集会で「理想の憲法の具体的な姿を国民に示す時だ。節目の年に歴史的一歩を踏み出す」と強調した。もちろん70年前の憲法は完全無欠ではないだろう。しかし今、自民党など改憲勢力が検討課題に挙げる緊急事態条項の新設や教育無償化などに緊急の必要性は薄い。憲法審査会の議論は深まっておらず、国民の抵抗が少なそうなテーマを探す「改憲を目的とした改憲」の議論に陥っている。

 自民党が12年に決定した改憲草案は憲法を全面的に書き換える復古調の内容だ。自民党の根本にこの考え方がある限り、与野党が一致点を見いだすのは困難だろう。

 国家の基本を定める憲法の見直しは、特定の政権が「成果」として目指すべきものではない。安倍首相が在任中の改憲を封印して初めて建設的な論議が始められる。(川上高志)

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