夏目漱石に『二百十日』という短編がある。阿蘇を背景に、全編ほとんど、若い江戸っ子2人の軽妙な会話で成り立っている小説だ◆金と権力で威勢を振るう華族と金持ちへの憤りが込められ、明治のうわべだけの近代化に対する漱石の批判が見てとれる。2人は二百十日の嵐に遭って、阿蘇山登山をあきらめるのだが、熊本の旧制五高教授時代の体験が下敷きにあるのだろう。二百十日に強風が吹くという設定が小説らしい◆きょうは、その二百十日にあたる。古来、この日は風の厄日とされてきた。稲の花盛りのころに襲ってくる台風が恐れられたのである。『佐賀歳時十二月』(佛坂勝男著)によると、佐賀でも昔から風止め祈願をするところがあり、氏神様に鉦(かね)、太鼓を打ち鳴らしての浮立を奉納した◆地区によっては風封じ、風の神様で知られる、みやき町の綾部神社へ参拝したところもあったというが、今も続いているだろうか。このところ台風が次々と日本を襲う。迷走の10号が東北地方を直撃し、農水産業などが被害に見舞われた。自然の猛威の前には、ひとたまりもなく口惜しい◆この時期の台風は沖縄や九州に接近することが多いが、今年はどういうわけか、北海道を立て続けに襲うなど例年と違う。まだ、これからの台風シーズン。もしもの時の備えを点検しておきたい。(章)

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