写真を撮るときのかけ声と言えば、もちろん「チーズ」。映画「男はつらいよ」で、渥美清演じる寅さんが、笠智衆の御前様にカメラを向けるシーンがある。シャッターを押そうとすると、御前様が「バター」-。チーズなら口角が上がって自然な笑顔になるが、バターでは口があんぐり。御前様の勘違いが笑いを誘う◆スマートフォンの普及で写真は手軽になったが、シャッターを押した瞬間はどれも大切な思い出に違いない。東日本大震災の被災地では、津波の土砂などから回収されたものの、持ち主が分からないままの写真が100万枚近くもあるという◆あの震災から6年半。ふるさとでの生活再建をあきらめて、離れた人も少なくない。そうした人たちに思い出の写真を届けようと、東京や仙台に出向いて「返却会」を開く自治体もある◆シリーズ最後の第48作「男はつらいよ-寅次郎 紅の花」は、阪神大震災が起きた1995年に公開された。被災地に居合わせた寅さんも視察にやってきた村山富市首相を避難所で案内したり、炊き出しを手伝ったりと奮闘する。そこには復興への願いが込められていた◆時代の空気をはらみながら、庶民の悲喜こもごもに寄り添い続けた名作。矢切の渡しに揺られて、寅さんがふるさと葛飾柴又へ帰る第1作は、69年のきょうが封切りだった。(史)

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