「75歳まで働け」という週刊誌の見出しを見るたびに暗澹(あんたん)たる気分になる。65歳を過ぎても働きたいという人が多くを占めるとはいっても、働き続けないと生活を維持できない高齢者の貧困問題が背景にあるからだ。「ゆとりある老後」どころか、死ぬまで働かないと「老後破産」が待っている。そんな社会が到来しつつあるのだろうか。

 「75歳まで働け」という見出しは、「65歳から高齢者」という定義を見直し、「75歳以上」に引き上げるべきという日本老年学会などの提言が今年初めに出されたことも影響しているだろう。ここで大事なことは、「65歳は知力も体力もまだまだ現役」といった健康水準の話ではなく、現実に65歳以降の高齢者の生活を支えるはずの年金や貯蓄に不安があり、それを補う手段が、個々人の働きにかかっているということを意味する。

 すでに、内閣府の有識者会議が、年金の受給開始年齢を70歳より後に遅らせることができるよう選択肢を広げる案を提示した。今後も、「原則65歳から」とする現在の受給年齢を引き上げる議論が予想されるだけに、あながち不安をあおっているとは言えない。

 高齢者の台所事情を、総務省の家計調査でみてみる。夫が65歳以上で妻が60歳以上の「高齢夫婦無職世帯」の家計を5年ごとにみると、2005年は月3・5万円の赤字だが、2010年は4・1万円、2015年は6・2万円と年々赤字幅が膨らんでいる。これは年金収入が減っている上、税金や社会保険料などの「非消費支出」の負担が増しているのが要因だ。

 一方、貯蓄額はどうか。2人以上世帯のうち、世帯主が60歳以上の世帯の貯蓄額は平均2385万円だが、中央値は1567万円。中央値の半分にも満たない700万円未満の世帯が全体の30%近くにのぼり、うち、400万円未満は18・6%と5世帯に1世帯を占める。平均額が2500万円近いという数字は、「持てる世帯」が平均を押し上げた結果で、ここには高齢世帯間の格差もみえる。

 実は、この貯蓄額平均の数字には、男女600万人といわれる「1人暮らしの高齢者」世帯が入っていない。こうした世帯を含めると、貯蓄に大きな不安を残す高齢者世帯はさらに高い割合になる。

 蓄えは少ない。毎月の赤字は膨らむ―。仮に月5万円の赤字があると、年間60万円となり、10年で累計600万円以上となる。この貴重な貯蓄を食いつぶしても、やがて生活が立ちゆかなくなり、息切れしたように「老後破産」がやってくる―という構図だ。

 今後は、晩婚化の進行に伴い、子どもが大学を卒業するまでの教育費や家のローン返済が65歳を過ぎても残る世帯が確実に増加する。さらに、非正規労働者で国民年金にしか加入していない人たちが高齢者になっていく社会が来る。長時間の就労のため地域を顧みる余裕を持てない高齢者が増えることも予想される。

 政府は「1億総活躍社会」を唱える。働く環境整備は必要だ。しかし、高齢者の就労を促し、社会保障費の抑制につなげても、100兆円にのぼる年間支出をさらに増やすようでは増税しても追いつかない。日本社会がこれからどうなっていくのか、根底から議論する機会を持ちたい。(丸田康循)

このエントリーをはてなブックマークに追加