夏期講習会で映画「一献の系譜」を見る酒造関係者=佐賀市内

■思いと技を受け継ぐ

 酒造りを51年、杜氏を33年もしていると杜氏の世界のことは大体わかってきた。体力の衰えを感じつつ、これからのことが身に迫る、まさにそんな時だった。ドキュメンタリー映画「一献の系譜」という映画が公開された。

 「能登杜氏四天王」と呼ばれ、吟醸酒の礎を築いた名杜氏たちの思いや技を後継者たちが受け継いでいく姿を描いた作品で、私も見たいと思った。ところが九州ではどこに尋ねても上映の予定はなく、募る思いだけがくすぶっていた。DVDが発売されるのを待つしかないと思っていた時、何とこの映画の監督とお会いした。

 石井かほり監督。知らない人が見れば、どこにでもいるチャーミングな女性かもしれない。しかし私はその時、息を大きく吸ったまま吐くのを忘れ、ぽかんとしてしまった。これはきっと神様がこの女性の体を使って、私の目の前に現れたのではないかと思えてならなかった。

 年を重ねると、先人や先祖から受け継いだものへの感謝と、それを伝えていかなければならない使命と、二つのことを考える。

 昨年10月、肥前町酒造従業員組合が地元の公民館を借りて上映会を行い、その成果は冬の酒造りに反映された。造りの期間中、折に触れて話題にしながら用具や道具をまねて調えたことは言うまでもない。

 今年も九州酒造杜氏組合と佐賀県酒造組合共催の夏期酒造講習会で見てもらった。この冬の造りでその成果が現れることを願っている。

いのうえ・みつる 1951年生まれ。「肥前杜氏」として半世紀にわたり酒造りに携わる。現在、有田町・松尾酒造場(宮の松)に勤務。九州酒造杜氏組合長。唐津市肥前町納所。

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