東京電力福島第1原発事故を巡り、検察審査会の議決に基づき業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電の勝俣恒久元会長ら旧経営陣3人の刑事裁判が東京地裁で始まった。東日本大震災によりもたらされ、未曽有の事故につながった津波の襲来を予見できたか、対策を取れば事故を防げたかが主な争点で、3人とも無罪を主張している。

 検察官役の指定弁護士は、旧経営陣3人が津波による事故を予測できたのに未然防止の注意義務を怠り、原子炉建屋の水素爆発で自衛官ら13人にけがをさせ、長時間の搬送や避難で福島県大熊町にある病院の入院患者44人を死亡させた-とする。だが有罪立証を待ち受けるハードルは高い。

 福島原発事故で各地に避難した住民たちが損害賠償を求めた集団訴訟の前橋地裁判決は「巨大津波は予見できた」として国と東電に賠償を命じたが、過失で個人の刑事責任を追及する今回の裁判では予見可能性などで厳格な立証が求められる。漠然とした危険の認識では足りず、具体的に事故を予測できたことを証明しなければならない。

 地検が2度、元会長らを不起訴処分にした理由もそこにあり、指定弁護士による立証は困難を伴うだろう。しかし、それが裁判の全てではない。福島原発事故では発生から6年以上が経過してもなお、未解明の部分がある。さらなる検証と教訓への一歩にしたい。

 福島原発事故の責任は誰にあるのか。菅直人元首相をはじめ政府や東電の関係者50人以上が告訴・告発されたが、東京地検はいずれも起訴しなかった。うち東電の勝俣元会長と元副社長2人が検審議決を経て強制起訴され、刑事裁判の被告の席に着くことになった。

 裁判でポイントの一つになるのが、東電が2008年にまとめた津波の高さに関する試算だ。東北地方から千葉県にかけての沿岸で大津波の恐れがあるとした政府の地震調査研究推進本部による長期評価が基になっており、明治三陸地震クラスの地震が福島県沖で起きたと想定すると、15・7メートルの津波が原発敷地を襲うという結果が出た。

 試算の報告と「海抜10メートルの敷地に高さ10メートルの防潮堤を設置する必要がある」との説明を受け、防潮堤設置に必要な認可手続きなどの検討を指示したと元副社長の1人は民事訴訟で認めた。地検の調べに、もう1人の元副社長も09年4~5月に報告を受けたとしたが、勝俣元会長は「報告は受けていない」と述べた。

 社内では重要設備の浸水対策も検討されたが結局、津波対策は講じられなかった。試算の後に元会長らが具体的にどのような情報に接し、どんな判断をしたかは十分明らかになっておらず、裁判の大きな焦点となる。

 検審が試算を重視したのに対し、地検は「試算を超える津波が襲来しており、防潮堤を建設しても浸水は阻止できなかった」と判断している。

 乗客106人が死亡した05年の尼崎JR脱線事故でも強制起訴でJR西日本歴代3社長の過失責任が追及されたが、7年余りを経て無罪が確定した。自然災害が引き金となった原発事故で過失責任を問うのは、はるかに大変な作業となる。元会長らも、いったん不起訴になりながら負担を強いられることになるが、惨事を二度と繰り返さないために避けては通れない道ともいえるだろう。(共同通信・堤秀司)

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