禅僧だが、寺も持たず、難しい説法をするわけでもない。和歌や漢詩をつくり、時には子らと鞠(まり)で遊び、求められれば筆をとる。江戸後期、今の新潟県で暮らした詩人僧を人々は親しみを込めて「良寛さん」と呼ぶ。近年、その書の評価はますます高い◆「誘惑に満ちた俗なる人間社会は夢みたいなもの。そこで真実に目覚めた人物は、西行以後では良寛だけである」。佐賀が生んだ書家、中林梧竹(ごちく)はそんな意味の漢詩を残す。托鉢(たくはつ)のみを糧とし、世捨て人同然の生活をしながら、中国や日本の書の古典を学んだ◆かな文字が持つ美しさを漢字にも生かしたその書は、やわらかく、優しさと温かみがある。飄々(ひょうひょう)とした造形が、まるで悟りを開いたかのように自由である。良寛の功績の一つは、現代に通じる独自の漢字かな交じりの書を生み出したこととされる(『NHK美の壺 良寛の書』)◆佐賀市の県立博物館・美術館で「県書道展」が始まった。地元が誇る梧竹と副島蒼海(そうかい)(種臣)の2大書家の名を冠した県内最大の公募展だけあって、多彩な造形の美に圧倒された◆古典に材をとったものや漢字かな交じり(調和体)、前衛的な墨象(ぼくしょう)の作品も並ぶ。書の奥深さを思い、黒(線)と白(余白)の響き合いの妙に唸(うな)らされる。伝統と歴史ある佐賀の地に育まれた才に触れる、よい機会だろう。(章)

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