朝晩は少しはしのぎやすくなったが、日中は残暑がまだまだ厳しい。うだるような暑さの中、のど越しよく涼しさを運んでくれる、昔からの庶民の友が、ところてんだ◆俳句の世界ではもちろん夏の季語で、江戸後期の俳人、小林一茶に<軒下のこしらへ滝やところてん>の句がある。街道の茶屋の軒下に、樋(とい)を引いて、冷たい山の水を落とした滝の下には、桶(おけ)にところてんが沈んでいる。旅人が立ち寄り、冷えたのを味わう図が浮かんでくる◆玄界灘周辺では5月、ところてんの材料テングサが採れる。唐津市肥前町大浦浜は漁が盛んで、約10軒の漁業者が船を出し、熊手のような道具を使って引き上げる。磯のテングサを採るのは女性たちだ。この地の風物詩となっている◆そのまま出荷するだけでなく、地元では自家製のところてんを作る。火にかけた大きな釜で水とテングサをぐつぐつと煮て、布で漉(こ)し固めたものを麺状に突き出す。肥前町の農産加工所「生き活きの里」の吉村キヨミさんは「今の時期が一番おいしい。ひんやりしてスルスルと入る。酢醤油(すじょうゆ)にゴマや山椒(さんしょう)の葉を入れてね」と教えてくれた。聞いただけで生つばが出てくる◆青のりで風味を添え、辛子(からし)を効かせて食べるのもいい。出来合いも美味だが、自家製はまた格別だろう。<浅草の辛子の味や心太(ところてん)>久保田万太郎。(章)

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