残業の「上限」を何時間に定めるか。政府の働き方改革実現会議の議論がヤマ場を迎えている。政府が示した「繁忙期は月100時間」案をめぐり、労使間の対立が続く。

 残業時間に「上限」を設ける法制化そのものは、連合と経団連、労使いずれも「画期的」と評価している。具体的には、上限を「年720時間(月平均60時間)」とする。さらに、違反した企業に対しては罰則を設けるという点までは合意にこぎつけた。これまでは事実上、無制限の残業が可能だったことを考えれば、大きな意味がある。

 残された焦点は、繁忙期に限って例外として認める「月100時間残業」の取り扱いだ。

 100時間案に対して、連合の神津里季生会長は「到底あり得ない」と強く反発する。というのも、残業月100時間は、過労死と労災認定する「脳・心臓疾患の発症前1カ月間に残業100時間超」に当たるからだ。いわば、「過労死ライン」まで働くことを合法的に認めることになってしまうという指摘だ。

 一方、経団連の榊原定征会長は「実態と懸け離れた規制は企業の競争力を損なう」と反論する。罰則付きの上限規制導入だけでも歩み寄ったのに、この上、繁忙期まで縛られてはたまらないと考えているのだろう。確かに、企業の競争力が大きくそがれるようでは困る。

 だが、仮に100時間規制を導入したからといって、企業にどれほどの影響があるだろうか。厚生労働省の2013年の調査によると、月100時間を超えて残業できる労使協定を結んでいる事業所は全国で1・2%にすぎない。

 すでに、働く人の4割が非正規雇用であり、人材の流動性は十分に高まっている。繁忙期の労働力を正社員の長時間労働に頼るのではなく、新たに人材を確保するなど、工夫の余地があるのではないか。

 根本的な課題は、日本の労働時間の長さにある。特に佐賀県は年間1879時間(15年)と、全国平均に比べて年間100時間近くも長く、全国でもトップクラスの長時間労働が常態化している。

 過労死も深刻だ。15年度に佐賀県内で過労死と認められたケースは18件。このうち、脳・心臓疾患による死亡は3件、残りの15件は精神障害による自殺(未遂を含む)だった。命を削るような働き方は、健全とは言えない。

 月100時間残業に対して、過労自殺した、広告大手電通の新入社員高橋まつりさん=当時(24)=の母幸美さん(54)が「経済成長のためには国民の犠牲はやむを得ないのか。働く者の命が犠牲になる法律は絶対につくらないでください」と批判していたが、その言葉を重く受け止めるべきだ。

 この先、日本の労働力人口は減っていく一方であり、人手不足はさらに深刻さを増していく。働きやすい環境を整えることが人材の確保にもつながるのだと、企業側も意識を変えていく必要があるのではないか。

 働き方改革実現会議は今月中に実行計画をまとめる計画で、残された時間は少ない。事態打開に向けて労使双方が引き続き努力し、この機会に上限規制を実らせてほしい。(古賀史生)

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