厳しく非難する言葉が緊張感を高め、予期せぬ事態へと発展する懸念を拭えない。

 安倍晋三首相が米ニューヨークでの国連総会で演説し、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮を「史上最も確信的な破壊者」などと強く批判した。前日にはトランプ米大統領が「完全に破壊」と軍事力行使をにじませて北朝鮮に警告している。

 北朝鮮は6回目の核実験を行い、国連安全保障理事会が全会一致で採択した制裁決議にもかかわらず弾道ミサイルを発射した。首相の演説は安保理決議の完全な履行を各国に呼び掛け、国際社会の結束した対応を求める狙いだろう。

 ただ目指すべき目標を間違えてはならない。北朝鮮に核・ミサイル開発を放棄させ、朝鮮半島を非核化し、地域の平和と安定を確立することだ。そのためには北朝鮮を対話の場に引き出さなければならない。

 圧力強化の一方で、北朝鮮を動かす打開への戦略はあるのか。平和的解決に向け、今こそ外交の力が問われている。

 北朝鮮には国連の場で増す批判の声を厳しく受け止めるよう求めたい。核・ミサイル開発は、もはや自らの体制を保証する手段とはならない現実を自覚すべきだ。

 首相の演説は大半を北朝鮮問題に割く異例の内容だった。気になる点を三つ挙げたい。一つ目は、従来以上に米国の軍事的オプションを支持する姿勢を打ち出した点だ。

 首相の演説はトランプ大統領の発言に呼応している。大統領は金正恩朝鮮労働党委員長を名指しして「向こう見ずで下劣」「自国民を飢えさせ弾圧している」などと非難。拉致事件にも触れて「13歳の日本人の少女を拉致した」と指摘した。

 その上で、北朝鮮の挑発行動には「完全に破壊するしか選択肢がなくなる」と警告した。激しい言葉だ。これを受けて首相は軍事力行使を含む「全ての選択肢」がテーブルの上にあるとする「米国の立場を一貫して支持する」と表明した。

 石油供給の規制を初めて盛り込んだ安保理決議の効果が表れていく今後数カ月、情勢は一層緊迫するとの観測がある。一方、日米韓は合同の弾道ミサイル防衛訓練を予定し、米軍は空母打撃群を韓国近海に展開する見通しだ。軍事的圧力は偶発的な衝突の懸念を増す。細心の配慮が必要だ。

 二つ目は、過去の対話を否定した、窓口を閉ざすような発言だ。首相は核開発凍結などを定めた1994年の「米朝枠組み合意」や2000年代初めの6カ国協議に関し「われわれを欺き、時間を稼ぐための手段だった」「対話による問題解決の試みは無に帰した」と断じ、「必要なのは対話ではない。圧力だ」と強調した。

 北朝鮮が対話の場に着くだけで見返りを要求し、その一方で核・ミサイル開発を続けてきた経緯はある。しかしそれでも対話の道を用意しておくことは必要だ。戦略的な取り組みが求められる。

 三つ目は、国内政治との整合性だ。首相は対北朝鮮での国際的な結束を国連で呼び掛けた。その帰国直後に衆院を解散し、日本が「政治空白」をつくることに各国の理解は得られるだろうか。選挙は政権の基盤を強化する結果になると約束されたものではない。今は外交努力に専念する時であり、現時点での解散・総選挙に疑問は尽きない。(共同通信・川上高志)

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