安倍晋三首相(自民党総裁)が、2020年に憲法改正の施行を目指し、9条と高等教育の無償化を具体的な検討項目とする考えを明言した。あえて改憲の「本丸」とされる9条改正に切り込んだ形だが、国民的な議論が巻き起こるかは見通せない。

 首相は改憲派集会にビデオメッセージを寄せて提示した。特に9条については、世論や野党に改正への根強い反対論がある中での異例の言及だ。それだけ首相本人の思いの強さがあらためて鮮明になった。

 発言の理由はいくつか考えられる。国会での憲法論議が進まないことに焦燥感を抱いているのは想像に難くない。与党は衆参両院で改憲発議に必要な3分の2以上の勢力を持っている。それなのに国会の憲法審査会の歩みは遅い。あえて正面突破で論議の加速を狙ったともいえる。

 もう一つは北朝鮮情勢の緊迫化を背景に、自衛隊の存在を位置づけるなど憲法改正が国民の理解を得やすくなったと判断したのだろう。また、長期政権への自信もある。首相は党総裁任期延長で21年9月まで在任が可能となり、内閣支持率は依然安定している。

 しかし9条改正発言は唐突感があるのは確かである。国会の憲法審査会でもまだ議論されておらず、自民党案とも異なる。

 9条は1項で「戦争放棄」、2項で「戦力の不保持」を規定。自民党改正草案ではこれを大幅に加筆・修正し、「国防軍」を保持すると明記されている。首相は今回、1項、2項はそのままに、自衛隊の存在を加えるとした。広く支持を得るためハードルを下げたといえる。

 確かに国民の大部分は自衛隊の存在意義を認めている。しかし、それは災害救助などでの活躍が評価されているからだ。あらゆる武力行使を禁止している9条は、自衛隊の活動に一定の歯止めをかけてきた。集団的自衛権の行使容認という憲法解釈の変更で、9条の形骸化も指摘されている。その上に自衛隊が明記されてしまえば、ブレーキが外れてしまわないか心配する向きもあろう。あえて憲法に書き込むほどでもないと考える人もいるはずだ。

 高等教育の無償化も一見理解が得やすいように映るが、大学に進学しない人も払う税金で、同世代の大学生の学費を賄うことへの抵抗感はないだろうか。財源確保もネックだ。自民党内では「教育国債」の発行も検討されているが、実質は子どもに借金を回すことになる。そもそも無償化は改憲しなくても、現憲法でも可能と主張する憲法学者もいる。

 憲法改正の発議をするのは国会である。首相でも自民党でもない。だから国会の議論に時間がかかるのはやむを得ない。今回の首相の表明は内輪の場でなく、国会か記者会見の場でして、広く国民に訴えるべきだったのではないか。

 今、改憲への国民の関心は高まっていない。3日付佐賀新聞で、井上亜紀・佐賀大准教授(憲法学)が指摘しているように、国民の多くが憲法を今すぐ変える必要がないと思っているからだろう。首相の思いだけでスケジュールを示されても、国民の意識が追いついていかない。首相の発言も含めて、国会できちんと議論すべきだ。(横尾章)

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