「子供より親が大事」と太宰治は短編『桜桃』で書いた。家庭をまったく顧みない無頼派の作家は、酒場でサクランボをつまみながら「子供たちは、桜桃など、見た事も無いかもしれない。食べさせたら、よろこぶだろう」と思いつつ、「子供よりも親が大事」と胸の中でつぶやく◆物語は、幼い3人の子どもたちと3畳間で夕食を取る場面から始まる。1歳の次女におっぱいをやりながら食事の世話をする妻に、どこに汗をかくかね、と尋ねると「この、お乳とお乳のあいだに、…涙の谷、…」◆この小説が書かれた1947(昭和22)年は第1次ベビーブームの始まりで、当時は15歳未満の子どもが人口の3分の1を超えていた。それが43年連続で減り、たった12%まで落ち込んだ。この数字は、私たちの社会が子育て環境の貧しさと正面から向きあってこなかった表れかもしれない◆ようやく、子どもの貧困に光が当たり、教育費無償化などの論議が活発になってきた。非正規雇用など不安定な働き方が拡大し、シングルマザーの暮らしを直撃している現実もある。社会構造の変化が、子どもたちへのしわ寄せになっていいはずはない◆太宰の桜桃のように、いくつもの「涙の谷」が流れている。子どもたちのためにも、その親を大切にする社会であってほしい。きょうは「こどもの日」。(史)

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