英国のミステリーの女王アガサ・クリスティーは時に禁じ手にも見えるトリックで読者を驚かせた。死の前年の1975年に発表した『カーテン』では、長年のパートナーと言える名探偵ポアロの死さえも描いている◆死の直前に思い立ったアイデアではない。英国とナチス・ドイツの戦争が続いていた30数年前に書かれたもので、彼女の死後に刊行する予定だった。『そして誰もいなくなった』など名作が続いた時期に執筆しており、作家として脂が乗っていたころの意欲作が生前最後の発表作品となった形だ◆彼女は亡くなるまでベストセラー作家であり続けた。晩年は書きためた原稿をクリスマスの時期に一つずつ新作として出し、ファンの期待に応えた。いい準備があったからこそ、いい終わり方ができたのだろう◆気づけば、春を迎え、年度末となっている。定年退職を迎えたり、別の部署に変わる人もいるだろう。もう1カ月を切ったが、まだ時間があるとも言える。手帳を見るなど、やり残しはないかを振り返り、目の前の仕事を納得のいく形で終わってほしい◆ポアロの死は現実の社会でも世界的なニュースとなった。死の直前は老いてやせ細っていたが、灰色の脳細胞で最後の難事件を大胆に解決した。幕が下りるその瞬間まで全力を尽くすことでカーテンコールの拍手は続く。(日)

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