日本の科学の研究力低下が止まらない。

 文部科学省科学技術・学術政策研究所がこのほど公表した調査結果によると、科学論文の数は10年前に比べ6%減って世界2位から4位に後退した。注目度の高い論文に絞ると世界4位から9位にまで落ちてしまった。

 今に始まったことではない。日本発の論文の5割を占める国立大からの論文数は2000年代半ばから伸び悩み、企業からの論文は1990年代から減り続けている。

 産業の「種」を生む科学の研究活動が縮小に向かっているわけで、政府の掲げる「科学技術イノベーション」も絵に描いた餅に終わりかねない、危機的状況だといえる。

 研究力低下の理由は複合的だが、研究と次世代の育成を担う大学や研究機関の現場が、「選択と集中」に基づく政策の度重なる失敗で劣化したことが大きい。立て直すには政策を転換し、研究環境を改善するほかない。

 最大の失敗は政府が大学などに投じる基盤的経費の削減だ。国立大への運営費交付金は2004年の法人化以降減り始め、本年度は04年度に比べ約1割減。私立大への経常費補助金も頭打ちだ。大学が全ての研究者に配分する研究費はやせ細り、若手を安定して雇用することも難しくなった。

 政府は一方で研究者が競って獲得する「競争的資金」を増やした。ただ、その額は不十分で、期間が限られているため、若手の安定した雇用にもつながっていない。

 研究費獲得や産学連携のための活動、市民向けの講演など研究者の仕事は増え、研究時間は著しく減り続けている。

 国の研究機関も深刻な状況だ。理化学研究所では運営費交付金が過去10年で2割近く削られた。20年前に所内にできた脳科学総合研究センターでは研究室の数が一時の約60から約40に減った。

 同センターの本年度予算は前年度から17%減。アルツハイマー病の基礎研究で世界トップレベルの成果を上げている西道隆臣さんの研究室は理由も説明されないまま予算が43%もカットされた。

 国内外の研究者にも提供してきた貴重な実験用マウスを1万匹から3千匹に減らさざるを得なくなり、スタッフ13人の雇用と研究費を確保するため、国内外の競争的資金の獲得に奔走している。

 研究環境の劣化は若者の夢を奪う。大学院の博士課程に進む人が減っているのも当然だ。また、小規模な大学ほど政策のしわ寄せは大きく、研究の多様性や研究者の層の厚みも失われつつある。

 この悪循環から抜け出すには大学などの基盤的経費を大幅に増やし、安定した研究環境をつくる必要がある。競争的資金や政府主導の大型研究プロジェクトの経費を減らしてでも実行すべきだ。

 研究力低下には、多くの企業が科学研究をやめたことも響いている。日本より先に企業が研究をやめた米国では、政府資金による大学での科学研究を基に若い博士がベンチャー企業を起こし、それを政府が手厚く支援し産業を生み出してきた。

 日本政府もそれをまねようとしてはいるものの、大学や研究機関での研究を再生させるという肝心要の課題の解決には消極的だ。それでは小粒な成果しか望めまい。好奇心に駆られてのめり込む科学研究こそが大発見をもたらし、社会を進歩させてきた歴史に学ぶべきだ。(共同通信・辻村達哉)

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